ノーブレット姉妹の誓い
後日、学園に到着した私たちに、久々のように感じるカトレアさんとイヴちゃんが走りこんできた。
渡された新聞の一面にはクロエさんとリルの婚姻について書かれていた。
忘れかけていたが、世の中はカーミラさんとクロエさんの結婚する情報が定着していたんだった。それが相手は実の妹に変わりましたって話だ。困惑するのも無理はない。
しかし、学園で最も困惑しているのは恐らく私だ。最後に別れるときまでリルとも一緒にいたが、そのような話は一切していなかったからだ。
確かに、前々から結婚するならクロエさんとがいいと言っていた。それでもこの間の騒ぎの直後にこれとは……。
もしかしたらリルは焦っていたのかもしれない。この間の結婚騒動で、最愛のクロエさんを再び誰かに取られてしまう前に決着つけたのだろう。
この大胆さはリルの専売特許だ。私にはできない。
その日以降一週間は、私とケイは周りから二人の結婚について詳しく説明を追求された。
ちなみに、騒動の犯人だったバートルと公爵に関しても記事があった。
二人は現在、ロベスト帝国のどこかにあるという刑務所の地下牢獄に監禁されているらしい。
被害者となったカーミラさんには公爵の座を後継する権利が寄与されたらしいが、即答で権利を破棄したらしい。記事には没落貴族のハーツ家と痛々しく釘打たれていた。
☆
「姉ちゃんっ。あ~~ん!」
「はむ……。ありがとう、美味しいわ」
教室の隅でクッキーを分け合うノーブレット姉妹。その様子を生徒たちは遠目からきらきらとした目で見守っている。
あれから一か月が経とうというのに周りはこの反応だ。私の推測ではあともう一か月はこの状態が続くだろう。
「な~、リル~?イブにも少し分けてくれよ~。カトレアが菓子を全部ミリーに与えるからイヴの分が――――っておい!何をするんだ!」
「イヴちゃんは私たちとあっちでお話しようねー。クロエさん、リルさん。ごきげんよう」
突如背後に現れた同級生数人がイヴちゃんを軽々とかつぎ上げ、教室を出ていった。気になって廊下を覗くと、廊下の奥にカトレアさんが満面の笑みでイヴちゃんをお迎えしていた。
「あの二人も相変わらずね。ケイもそう思わない?」
「…………」
ケイに問いかけたが反応がない。不思議に思い振り返ると、ケイは窓辺のリルたちを虚ろな表情で見つめていた。
「?ケイ?」
まだ私への反応がない。わざとか?わざと私を無視しているのか?
今度は袖を掴んで揺らした。
「ねえ、ケイったら!」
「……!ユリア。どうしたの?」
ケイは驚いたように私を見た。
「どうしたの……。じゃないわよ!私が聞いてるのに無視したじゃない!」
「無視なんて私がするわけないよ。少し考え事をしていたんだ。ごめんね」
「もう。ケイの耳には私の声は小さすぎるのかしら……」
「そんなことないよ……」
ケイは私をそっと包んだ。
「私はいつだってユリアの近くにいる。だからユリアのどんなに小さな声でも、私は聞いているよ」
「ケイ……」
ケイは私の頭に手を置き、微笑んだ。
「さっき私が呼んでも聞いていなかったくせに」
「あ……」




