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二人の答え

「お待ちくださいっ!私たちがこのお城に!?」

「クロエ。部屋で詳しい説明をお願いしてもいいかい?」

「かしこまりましたわ、お父様。みんな、私に着いてきて」


 

 ~クロエさんの部屋~


「それで、さっきの続きなのだけど、カーミラさんは公爵とは縁を切ってしまった。そこで今回の被害者でもあるカーミラさんを保護と贖罪を兼ねてうちの騎士として所属させたい、ということよ」


 横で聞いていたリルはパーッと顔を明るくしてカーミラさんの顔を覗いている。まだ本人が何も言っていないのに気が早いでしょう、リルったら……。


「ナディアさんについては、私が勝手にメイドとして連れてきてしまったけれど、メイドとしての仕事ぶりが他のメイドたちに高評価だったらしいわ。できることなら、これからもうちで働いてほしいということよ。もちろん私も、両親も大歓迎よ」

「わーい!わーい!カーミラちゃんとナディちゃんがうちに来るんだー!やったー!」


 だからまだ二人は何も言っていないのに……。

 リルは舞うように喜びながらお茶菓子を用意すると言い、奥の部屋へと入っていった。リル一人では何だか心配だったため、ケイにリルのあとを追わせた。


「話を戻すけれど、二人とも、どうかしら。今すぐに決めろとは言わないわ。私たちはあなたたちの意見を最大限に尊重するつもりよ」

「……っ。クロエ王女。私、このままここでお仕えしたいです……!」


 ナディアさんは覚悟を決めた表情のあと、胸に手をあて、振り絞ったような声でクロエさんに頼んだ。


「ええ、もちろん。ナディアさんのご両親には、後日、私が直接ご挨拶に行くわ」

 

 王女が一般人の家庭に挨拶に訪問するなんて大丈夫なのだろうか。前に私たちが町を訪れた時に、普通の馬車でも物珍しそうに見られたのに……。

 

 ナディアさんと比べ、カーミラさんは口元に手を添えたままなかなか熟考している。

 両陛下や王女のクロエさんにここまでの後押しがかかれば、常人なら一世一代のパーティーを開きそうなほど歓喜するところだが、カーミラさんは事が事なだけにそうはいかないのだろう。

 

 と、ナディアさんが心配したのか、声をかけようとしたところでようやくカーミラさんが動いた。さっきまでの下を向いて考えていた顔つきと違う。答えが出たんだ。


「クロエ王女。ご無礼を承知の上でいくつかわがまま申し上げてもよろしいでしょうか」


 クロエさんは何も言わず微笑した。


「私を騎士としてこちらに所属させてください。そして学院を()()()()()()()()、お城に居候させていただいてもよろしいでしょうか」

「卒業まで、ということは他に何かあるのね」

「はい……」


 すると、カーミラさんはナディアさんがいる方へと体の向きを変え、優しく手を取った。ナディアさんは若干の照れ気味で、カーミラさんをじっと見つめている。



「私は、このナディア・フィーベルと婚約します……!そして、彼女が育った町の管轄騎士として派遣していただきたいのです!」



 優しく握られた手とは対称に力のこもったその声は、カーミラさんの強い意思と切なる願望がひしひしと伝わった。 

 真横で突然のプロポーズを受けたナディアさんの目からは一気に涙が溢れ、握られていない片方の手で口を押さえながら下を向いた。

 この台詞が出てくることはクロエさんも予想外だったようで、口を開けたまま数秒間固まってしまった。

 パチパチっと瞬きをして飛んでいた意識を戻したクロエさんは、胸に手を当て細く息を吐くと、真剣な表情に変えてカーミラさんとナディアさんに目を向けた。


「カーミラさん、ナディアさん。私、クロエ・デ・ノーブレット並びに王族関係者はあなたたち二人を生涯の保護対象とし、平和と安寧が続くように一切の支援をいといません」


 クロエさんはナディアにゆっくりと近づき、俯いた顔を覗くように膝を折る。


「ナディアさん。それでもいいかしら……?」


 ナディアさんは何も言わず頷いた直後、顔を両手で隠したまま声を出して床に座り込んだ。

 泣いているはずなのに、顔を隠して表情もわからないはずなのに。なぜか今のナディアさんからはとても幸せそうだというのが伝わってきた。

 

 それからしばらくしてリルとケイが戻ってきた頃には、ナディアさんはクロエさんのベッドの上で静かに寝つき、隣ではカーミラさんが穏やかな表情でナディアさんの頭を撫で続けた…………

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