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クロエの婚約破棄計画


「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!!起きてよお姉ちゃん!!」


 駆け付けた時には仰向けに倒れていたクロエを、リルは真っ先に起こそうと名前を呼び続けた。

 リルより少し遅れてきたケイは周辺の状況を目にし、追ってきたユリアたちにハンカチで口を押さえながら近づかないように指示した。


「これは……酷いな……」


 ケイは即座にクロエを抱きかかえ、リルにもこの場を離れるように催促した。()()()()はケイの頭を狂わせ、走ろうとすると腹部からこみ上げてくるのを感じた。

 しかし隣にいるリルは特に変化なく、ずっと抱きかかえられているクロエを心底心配そうに名前を読んでいる。


「リルさんは、強いですね……」


 ある程度の距離まで離れるとケイは芝生にクロエをゆっくりと横に寝かせた。

 ケイはカーミラが持ってきた水を少量含み、残りをクロエの口に流した。

 再びリルが名前を呼んで体を揺らし、しばらくしてクロエは小さな唸りとともに目覚めた。


「姉ちゃん……!姉ちゃんっ!!」


 上体を起こしたクロエにリルはぎゅっと抱きしめた。


「姉ちゃん、大丈夫??痛いとことかない??」


「…………ふぇ~?リルちゃん、リルちゃんだぁ。リルちゃんは今日もかわいいでちゅね~。お姉ちゃんがちゅーしてあげるぅ~♡」


 クロエはとろけた目と声でリルの頭を撫でたあと、両手で顔を掴み頬にキスをした。


「え、えええええええええっっ!!?ククククク、クロエさん!!???」


 ユリアは両手を頬にあて動揺し、カーミラとメイド姿の少女も、まあ、と顔色を明るくした。

 大好きなクロエのキスを受けたリルは意外にも声を上げず、ましてや驚く様子もなく固まる。


「へ………?えーーーーーーーーー!!!!!」


 前言撤回、この日誰よりも大きな一声を上げた。


「ネネネネェチャンガガガガガ、ワワワワタシノホッペニ、キキキキキスヲヲヲ」


 リルはガタガタと振るえながらユリアに近づいて行った。


「おおおお落ち着いてリル、こここれは夢、そう夢よ!!」


 ユリアも同様にガタガタと震えながらリルと手を取り合った。ついでにユリアは今日起こったこと全てを夢にすり替えようとしていた。


「ユリアもリルさんも落ち着いて。さっきは私も匂いを嗅いでしまってわからなかったけれど、クロエさん、酔っているだけだよ」


 ケイはクロエに近寄り、顔を近づけて匂いを嗅いだ。


「うん、これは赤ワインだ。馬車の周りにもあった赤い液体は飛び散っていたガラスのビンから考えて、クロエさんは赤ワインを浴びてしまったんだろうね。せっかくの高級な白いウェディングドレスもこんなに濡らしてしまって……」

「ん~?ケイひゃんもちゅーしてほしいのー?いいよぉ、おいでー!ちゅ~~♡」


 ケイが汚れた箇所に触れていると、クロエはケイの首に手をまわし、口を鳥のくちばしのようにして顔を近付けていく。


「んなぁっ!?それだけは、だめえええええええ!!!!!」



   ☆



「あなたたち、そんなに私に斬られたいのかしら……?」

 

 酔いから醒めたクロエは自分の部屋の椅子に座り足を組んでいた。

 酔いはなくなったが、頭の痛みが残るクロエは頭に手をあてながらにんまりと顔を歪ませて見てくる全員を睨んだ。

 

「まあまあ姉ちゃん、みんな色々助けてくれたんだし!」

「はぁ、そうね。今回だけは目をつぶりましょう。それで、今から今日までの出来事を説明しようと思うのだけれど、どこから説明を始めればいいのかしら……」


 クロエは数秒の沈黙すると、メイド姿の少女を見た。


「まずは彼女の紹介が先かしら」

「はい、私はナディア・フィーベルと申します。そちらにいるカーミラとは幼馴染になります。紹介が遅れ申し訳ございません」


 ナディアはユリアたちに向け頭を下げた。そして、ところで……とケイの方向を向いた。


「旅人の方がどうしてこちらに?」


 きょとんとした目で首をかしげるナディアにケイは自分の本当の正体と、前回出会ったのには目的があったことを伝えた。ナディアは聞いた後ほんのしばらくは「まあ、そんなことが」と驚き沈黙した。

 そしてクロエの方へと体の向きを変えた。


「あなたたちも私と似たようなことをしようと考えていたなんて。大人しくしておくようにと言っておいたのに、まったく、困ったものね……」

「姉ちゃんそんなこと一言も言ってなかったじゃん!結婚を祝福しろとか言って!」

「ええ、だから私たちの結婚を祝福する。つまりは周りと同じようにただ席に座っているようにと伝えたつもりだったのだけれど、こればかりは私の誤りだったわ……」


 クロエはまたも短くため息をついた。

 ユリアは自分の考えが浅いような言い方に感じられ、伝言ならもっとわかりやすいのにしてほしかったと小さめの声で反論した。

 しかしクロエは、万が一外部に伝言がばれてしまった場合でも誤魔化しや伝言の意図が悟られないようにするためだった、と説明した。

 筋の通った説明が返され、それ以上の反論の言葉が思い浮かばないユリアは悔しがるようにケイの袖をぎゅぅっと強めに握りしめた。

 

「でもどうしてナディアさんはこのお城にいたんですか?それもメイドで……」

「私が頼んだのよ。カーミラさんの遍歴を探った私は彼女の存在に気づいた。そして私が直接接触して、彼女にはカーミラさんの奥底にある真の感情を揺さぶって式を壊す手助けをお願いした。でも直前で最終の段取りを省略させられて私の計画も崩れた。だから私としては滅茶苦茶な考えだけれど、剣闘を行ったというわけよ」


 クロエが策略していたことを全て話したところで、部屋にあった大時計の重厚な音が空気を振動させた。クロエはちょうどいいから夕食にしましょう、と全員を食膳の大部屋へと場所を案内した。

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