動乱の式場
「貴様、話が違うではないか!」
「い、いえぇ、私もこれは想定外でしてっ」
「万が一私の娘が負けるような事があれば、その時は……」
「ししししばしのお待ちを!! すぐに対処し婚姻させますので!! ……くそっ! こうなればやむを得んか……!」
状況を整理する間もなく剣闘が始まり、私とケイ、そして騒ぎで戻ってきたリルの三人でわけもわからずただ見下ろしていた。
「ケイ!これはどういうこと!?」
「私にもわからない……。けど、クロエさんは本気でカーミラさんに勝つつもりのようだね」
クロエさんの剣はひとつひとつが力強く、今まで穏やかだった様子を忘れさせるほどの覇気を帯びていた。
その表情は鬼気迫るもので、私の体は勝手に震えていた。
すると一人の貴族が人を分け入って中央に向かっていた。
「カーミラ、自分が何をしているのかわかっているのか! 今すぐにこんなふざけた真似をやめろ!」
「騎士として一戦を持ち掛けられた以上は受けなければなりません。それも相手が一国の王女とあればなおさら」
「いいか、絶対に敗北なんぞ許さんからな。勝って何が何でも王女と結婚しろ!」
あれは先日会った公爵。前と違って両陛下の御前だというのに声を荒げて乱暴な口調を。それもクロエさんを王女呼ばわり、イメージとしては最悪だ。
こうまでしてもクロエさんとの結婚に執着する理由があるのだろう。
ここまではクロエさんが優勢。有名校の首席を相手に引けを取らないなんて、やっぱりクロエさんはすごい。
「手を抜いてる。わざと負けるつもりなのか……」
「え…?」
ケイが小声で何かを呟いた。
「クロエ様とカーミラ様がご乱心だ! ただちに取り押さえなさい!」
突如扉が大きく開かれ、大勢の騎士兵が会場中央に向かって雪崩れ込んだ。クロエさんたちはあっという間に騎士兵たちによって囲まれ、剣闘を中断した。
騎士兵が二人に対して剣先を向けている。こんなの使える身として許されるわけがない。両陛下も流石にこれは……。
「っ!? ケイ! 両陛下がいないわ!!」
「まさか、混乱に乗じて奥に移されたのか……!」
「……ケイ、私、今回の結婚式の黒幕が誰なのかわかってきたかも……」
「やっぱり気が合うね。私もだよ、ユリア」
「二人とも何を話してるの? 私にも説明してよー!」
☆☆☆
「両陛下はこの中に誘導しておきました。あとはどうとでも」
大きな扉の前でバートルが頭を下げた。
「よし、あとは来賓を適当な場所に移しあの二人に指輪をはめさせるだけだ」
公爵は会場へ戻ろうと歩幅を大きくしながら廊下を歩いた。そしてちょうど角に差し掛かったその時―――
「きゃっ!」
一人のメイドとぶつかり、メイドは地面に倒れた。
「ええい、このメイド風情が!! ……貴様はどこかで……? そうか、あの時のか…………ふふ、ふははははっっ!! 天はまだ私の味方だぁー!!」
~式場~
「来賓が騎士兵たちに外へ誘導されている!」
ケイに言われ見下ろしていると後ろから金属があたるような音がいくつも聞こえてきた。振り返るとそこには騎士兵が廊下に繋がる通り道にいた。
「リル王女、ユリア王女、お迎えにあがりました。急を要しますので速やかに私たちと同行を願います」
下の騎士兵たちとは明らかに違う銀色に輝く甲冑。そして胸につけた勲章。ノーブレット王家専属騎士の上級階級だろう。
リルと私、国は違えど王女が二人いるのだから護衛がこうなるのも当然だ。リルも抵抗をする素振りも見せずに拳を握りしめ下を向いた。
「さあ、私たちも参りましょうユリア様」
特派員も騎士に便乗し、私たちに催促する。
でも私は、そういう言葉は、隣にいる一人だけに言われたい……!
「ケイ……お願い……」
私はケイの袖を指でつまんだ。
「……承知いたしました、姫」
ケイはいつもの優しい声で頭を下げ、剣を握った。




