動く影
「どうしよ~ユリアちゃん! このままだと姉ちゃん本当にカーミラちゃんと結婚しちゃうよ~!」
「リルっ、わかってるからドレスを引っ張らないでっ!」
リルはよりにもよって首から肩にかけて大胆にも露出したドレスを掴み左右に揺らす。ただでさえ歩くだけでも一苦労だというのに引っ張られたりしたら、最悪、人には見せられないところまで出てしまう。
私はドレスがずれないように必死に押さえた。
「ケイも見てないで早く助けなさいよ!!」
「……え? ああ、うん……」
「どうして嬉しそうなのよっ!」
私が抵抗している様をケイは頬を赤くし、固唾を飲みながら見ていた。恐らくまた変なことでも考えていたのだろう。
メイドたちが特注品だというからどんなものかと思っていればこんなもの……。特注した者には直々に罰を与えよう。何となく犯人はわかっているけど……。
それはそうと今は目の前のこの状況を何とかしないと。
私たちがカーミラさんから聞いていたクロエさんの意思とは間違ってて、しかもカーミラさんまで結婚を志望していた。このままでは本当に二人が結婚してしまう……。
ん……? よく考えれば、互いに結婚したいというなら別に止める必要がないんじゃ?
確かにクロエさんのことが大好きなリルには酷なことかもしれないけど、本人たちの気持ちが優先されるべきだし。
私からリルに説得させることも視野に入れて……。
「ユリア、あれって……!!」
ケイがクロエさんたちの壇の方向に指をさした。
そして目に入った瞬間、私は前のめりになった。
「ど、どうしてあの子があそこにいるのよっ!?」
☆☆☆
「こ、こちらが、お二人のケーキカットナイフになります……」
一人のメイドがさらに乗せられた大き目のケーキカットナイフを両手に持ち、二人の間に僅かに入った。
「ありがとうございま……っ――――!」
今日までに何人と自分の近くを通ったメイドたちとは何かが違う香りをカーミラは知覚した。
どこか懐かしく、楽しい記憶が蘇ってくる。まるで幼い日の、離れ離れになってしまった彼女を思い出させるような、アネモネの花の香り……。
「クロエ様、カーミラ様。この度はご結婚おめでとうございます……」
飛んでいた意識が戻ると、メイドは壇上から降りようとしていた。
「……っ! 待ってくれ! あなたは―――――」
「初めての共同作業となります。会場の皆さま、大きな拍手を!」
カーミラがメイドを止めようと手を伸ばしたそうとした時に司会の声が入る。
メイドはスカートの両端をつまみ深々と頭を下げると速やかに階段を下りて行った。
「今は目の前のことに集中なさい」
「はい、申し訳ありません……」
二人が共に持ったナイフは何層にも積み上げられたケーキにゆっくりと切れ目を入れていった。その間中、二人は華やかな拍手に包まれ、笑顔を作った。
「まさかこうも事が順当に運ぶとは思わなんだ。これで私の貴名も諸外国に知れ渡るだろう」
「ええ、ええ。それで、あの件は……?」
「わかっている。貴殿も立場を利用し私に近づこうとは、ここは賢い選択と言っておくべきか」
「いえいえ、私は老いてもこの頭だけは両陛下に特別を許されたんでね……ククク」




