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バッドウェディング

「お待たせ致しました。本日主役のお二人の入場です!」


 王様の側近と聞いていた老人が、その容姿からは想像し難いよく通る声でクロエさんたちの入場を知らせた。

 クロエさんのウェディングドレスは初めて見たけど、全身が清い純白で包まれて、レースで顔が隠れていても美しさがわかる。今のクロエさんはまさしく“綺麗”という言葉がこの会場の誰よりも相応しい人物だろう。

 カーミラさんと手を取り合って壇上の席へとゆっくり歩いていく。皆、二人を眩しいものを見るように目を細め、座る指示があるまで力のこもった拍手をやめなかった。


「ユリア、あそこにいるのって……」


 拍手をしているとケイに耳元で囁かれ、クロエさんたちが出てきた扉の入り口を見た。私たちの席は特別席で上の階の会場にせり出したところにあったため、すぐに視線を移し替えることができた。そこには隠れるようにしてリルが立っていた。それも悲しそうな表情で。



「……!」



 私の視線に気づいたリルは動揺し扉の奥へと走っていった。私は席を離れようと後ろを振り返ると、特派員が通り道を塞いでいた。



「どちらへ行かれるのです、ユリア様。間もなくユリア様が祝辞を述べる出番なのですよ」

「どきなさい。これは命令よ」

「なりません。これからして頂く事以上に重要な公務は現在のユリア様にはございません。お戻りを」



 この特派員、きっと上に昇級でも吹き込まれたんだわ……。どうこう言っても止められそう。

 こういう風に大抵の隊長は頭が堅く、臨機応変な対応に疎いからいつまでも隊長から昇進できないのよ。帰ったらお父様に一つ言ってやろうかしら……。



「ユリア、ここは任せて」


 ケイは私の肩をポンと叩き前に出た。


「うぅっ!?」


 ケイは一瞬の速さで特派員の腹部に拳を入れた。そして特派員はそのまま静かに床に転がった。


「さ、行こう」

「私、知らないわよ……」

「ユリアが今ここを離れる時点で同罪だよ」



 目を細める私にケイはにこっと笑顔で罪を共有してきた。

 まあいい、罰なら後で適当に受けよう。今はリルだ。




 廊下をしばらく走るとリルの後ろ姿が見えた。

 リルは走っているこちらに気づくと再び走り出した。



「ケイっ!」



 目配せすると、ケイは察したように頷き、前へと速度を上げた。

 そして長い廊下の距離をものともせずにリルを追い抜き、両手を横に広げた。立ちふさがったケイに驚いたリルは立ち止まった。



「はぁっ、はぁ……。リル、どうしてあんな悲しそうな顔をしていたの?」



 リルはゆっくりと私に振り向き顔を上げると、その目には涙が溢れていた。



「ユリアちゃん……っ。姉ちゃんたち、結婚するんだってぇ……。私たちが学園で聞いたこと、嘘だったんだってぇ……。うぅ、うぁあああああああん!!!」



 リルは声を震わせ我慢していたのが限界に達したのか、大粒の涙とともに私に抱き着いた。リルの言っていることに訳が分からず、ケイを見ると首を横に振り自分も状況が把握できていないことを示した。



「リル、私たちと一緒に居ましょ? 友人と一緒にいると伝えればきっと国王様たちだって了承してくれるはずよ」

「っ……うんっ。ユリアちゃんたちと一緒にいる……!」



 泣きじゃくった小さな子どもが親の言う事に従うようにリルは返事をした。今のリルは冷静を欠いているせいで私の言う事にもすぐに聞いたのだろう。私に頭を撫でられながら目をこする姿は同い年であることを忘れてしまいそうになる。



「ふふっ、ユリアはリルさんのお母さんだね」

「誰がお母さんよっ!!」

「ママァ……」

「ほら、変な事言うからリルが真似したじゃない!!」



 リルはその後も、抱っこぉ……と私に立たせようとしたり、歩くときに手を繋いできた。これでは本当にリルが幼児化したみたいだ。

 



     ☆




 私の祝辞も終え段取りが進むと、各人が壇上に上がりクロエさんたちと挨拶をするプログラムに入った。リルが聞いたという、結婚意思がないのが嘘だったのか聞き出すのはここしかない。



「二人とも、行くわよ……」



 私はケイとリルを引き連れて壇上に上がった。

 私たちが身を引き締めているのとは反対に、クロエさんは穏やかかつ曇りのない表情で私たちを迎えた。



「あら、どこに行ったのかと思っていたけど、ユリアさんたちと一緒にいたのね」

「クロエさん。本当に結婚するんですか?」

「ええ、私たちは結婚するのよ。だからカーミラにも祝福してほしいと伝えるように言っておいたつもりだったけれど。違ったのかしら、カーミラ?」



 カーミラさんはクロエさんの一歩後ろに立ち、胸に手を当てた。



「いいえ、間違いなく皆様にお伝えしました……」

「そう、なら問題ないわね。それじゃあユリアさん、ケイさんもせっかくの式だから、少しでも楽しんでもらえると嬉しいわ……」



 クロエさんは私が今まで見たことがない、何一つ疑いようのない笑顔で私たちを照らした。こんなことって……。


 私たちはそれ以上何も言わず、壇上から降りて行った。

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