裏切りの結婚
クロエさんの結婚式当日。私たちは宮殿でお父様たちと合流する予定だったけど、昨日の夜にお母様が風邪をひいてしまったらしく、代わりに特派員とお父様直筆の手紙を渡された。これはつまり、お父様の代わりに私が祝辞を述べろと言いたいのだ。
手紙に書かれたものを読めばいいだけとはいえ納得がいかない。でもお母様が風邪をひいてしまったんだし仕方がない。
「ふふ、今日は一段と綺麗だよ、ユリア」
「もう、ふざけてないで行くわよっ。今日は私たちにとっても覚悟が必要なんだから!」
「そうだね。それでは王女様、お手を……」
気障に振舞うケイ。
もしかして私の緊張をほぐそうとしてくれている……?
いや、こういう時のケイは私の反応を面白がろうとすることが大体だ。
きっとそうに違いない。
でも、ケイの向けてくる笑顔を見ていると、疑っていたことがどうでもよくなってきた。
若干不満そうに顔に出し、私は差し出された手をとり馬車に乗った。
☆☆☆
「姉ちゃんと私は双子なのに、姉ちゃんは私と違って本当にオトナって感じ……。すごく綺麗だよ……」
純白のウェディングドレスを身に着け、花のように淑やかに椅子に座っているクロエの横でリルは鏡を見ながらこぼす。
顔化粧も専門のメイドにより施され、いつ式を挙げても問題のない状態だった。
「お姉ちゃん……。手紙で言ってたこと、信じていいんだよね? いつまでも私の側にいてくれるって……」
リルは自分の額をクロエの頭の後ろに合わせ問いかけた。
そんなリルの弱々しい声に微笑し、肩に置いていたリルの手と重ねた。
「あなたは昔からそうよね。不安になったり、怖がる時には私のことを子犬のように震えた声でお姉ちゃんと呼んで……。けれど、そうしていつも私を頼ってくれたのが嬉しかった。だから私は―――」
扉をノックする音がクロエの言葉を遮るように部屋の空気を震わせた。
「いよいよね……。さあ、行きましょう。きっとユリアさんたちも待っているはずよ」
「うん……」
数人のメイドがトレーンを床に着けないように持ち、リルはクロエの横で手を軽く握りエスコートする。
見慣れた景色の一部だった廊下に敷かれた赤いカーペットが、リルにとってはクロエを遠い場所へと誘う一本道に見えた。
ユリアたちが姉の結婚に反対してくれた。クロエ本人も手紙で、加えて婚姻相手となるカーミラにもクロエに結婚の意思がないと言われた。
一時はそれで安堵したものの、本番を目の前にして再び不安が沸き起こった。
「あっ……」
長かったはずの廊下はあっという間に終わり、カーミラが会場に繋がる扉の前でクロエを待っていた。
しわが全くない白のタキシード姿のカーミラを見た瞬間、リルの口は勝手に動いていた。
「…………カーミラちゃん、お姉ちゃんと結婚しないんだよね……?」
「…………緊張されているのかと思っておりましたが、御冗談を仰られるほどには落ち着かれているようで安心しました。では、クロエ王女……」
「ええ、カーミラ…………」
クロエはリルを振り返ることなく、満面の笑みでカーミラと手を重ねた。
リルが困惑し立ち尽くすのを後にして、カーミラとクロエは会場の盛大な拍手を共に受けた。




