結婚準備
私たちがカーミラさんの幼馴染を見つけ出した頃には、クロエさんの結婚式の日まで残り一週間を切ろうとしていた。
流石にその日がすぐそこまで迫っているとなると、学園でも生徒たちの間で自然と話題にあがる。週明けに学園に戻れば、リルや私は生徒たちから囲まれ、クロエさんの結婚に関する質問の押収を受けてしまった。
みんなは目をきらきらと輝かせて自分たちの思い描く結婚式をもとに質問してくる。でも実際はそんな華やかなものではない。特に今回の結婚話は…。
だからこそ、クロエさんとカーミラさん、双方の望む形に終着させなければならない。
「ユリア、ちょっといいかな?」
ケイに誘われて私は校舎近くの人気が少ない場所に連れてこられた。そこにはリルともう一人いた。顔がフードで隠れていて誰なのかわからない。
「急遽の呼び出し申し訳ありません」
「カーミラさん!どうしてここに!!?」
今は日にち的にクロエさんのもとへと出向き、西国流のしきたりで結婚式までの間クロエさんと一緒にいなければならないのだ。
万が一ここにいることがバレた際にはどんな罰則が下るか…。
なるほど、そのためにフードを。でもここへはどうやって。馬車を手配しようにも西国から出ようとするなら、現在国境付近の街に駐在する検閲官にバレてしまうはずだ。
「ユリア、気になる点がいっぱいあると思うけど、後で私が説明するよ。今はとにかくカーミラさんに許された時間は少ないんだ」
「ええ、わかったわ」
ケイはカーミラさんに合図地をすると、周りを警戒しつつ私たちにしゃがむように指示した。
「今日私がここへ来たのは、クロエ様からの伝言と手紙を預かったのでそれを届けに参りました」
「姉ちゃんが!?」
リルは嬉々として手紙を受け取り、手紙に全ての集中を向けた。
「クロエさんはこのように仰っていました、『当日は私たちを祝福しなさい』、と……」
「それってどういう意味かしら…。クロエさんは結婚するつもりはないはずでしょ?言っていることが真逆だわ」
「落ち着いてユリア、詳しい解釈は後で考えよう。それよりカーミラさん、そろそろ」
「はい…。それではお二人方、私は先にお城でお待ちしております」
そう言い残すと、ケイの後を追って雑木林の中に消えていった。まるで風が吹き抜けたかのような一瞬の出来事で、私の頭の中は状況整理が追いつかなかった。
「それで?説明してもらおうかしら。どうやってカーミラさんが学園まで来たのか。ケイはいつ今回の事の話合わせていたのか」
放課後、先程のケイの説明を受けるため、私の部屋でリルも入れて集まった。ケイは紅茶を一口含んだ後にそれじゃあ…と説明を始めた。
「まず、カーミラさんとコンタクトをとったのは先週。西国が本格的に警備が厳しくなる前に私が西国に潜り込んだんだ。そしてクロエさんに何か一言でも仰ごうと思ったんだけど、それがあの伝言と手紙だった」
伝言についてはケイも想定外だったようで、あはは…と苦笑を零した。
「そして移動手段だけど、その時に西国にいる私たちの駐在騎士に話を通して外に出してもらって、私と合流したってわけ。私もどうやって外に出したのかは不明だけど、ね」
ケイは意味を含んだような言い方で口に人差し指を立てた。要するに秘密にしておいた方がいい方法なのだろう。
「え……?もしかして、殺しちゃったの!?」
「ふふっ、大丈夫。そんなことで命を奪うような手段をとる素人は私の知る限りいませんから」
酒に酔わせたか睡眠薬で盛ったか、知りたいところだけどそこは向こう側の秘密事項ってやつだろう。やり口が知られたら対策されてしまい手口が少なくなるから。
何だか泥棒みたいだ…。
「説明は理解したわ。でも、また私に内緒で動いたわね~?」
「下手に秘密情報を流して動く動悸にしたくなかったんだ。ユリアは王女だから、どこかに移動するのにも私や城の騎士たちが動かないといけないから」
「あーあ、よくわかったわ。そういうことならこれから部屋に入れるのも考えないといけないわね」
「ま、待って!それとこれとは話が別だよね!?」
ケイは慌てて私の前に立って機嫌をとろうと説得の言葉を並べた。
「あははっ、二人ともすっかり夫婦みたいだね。あ、アイビーだっけ」
「誰がこんなのと!」
ケイはよろよろと後ろに下がって椅子に腰を落とすと、抜け殻のように動かなくなった。
「二人とも仲良しだね~。……私も早くこんな風になれたらな。お姉ちゃん……」
リルは持っていた手紙に視線を落とした。
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手紙という程のものでもないけれど、こちらの現状を記すわ。
現在は式の準備に城中が忙しない雰囲気に満ちている。私が何をするにも使用人たちが後ろを着いてきて、ただただ辟易としているわ。
結婚で祝福されるはずの私が、大きなかごに入れられたまま周りが歓喜する様子を眺める姿はまさに滑稽ね。結婚はユリアさんたちだけで十分だわ。
もうじきユリアさんたちも来る頃ね。伝えた通り、あななたちは私たちの式を盛大に祝ってほしいわ。せっかくの式だもの、一時でもその幸せを体感してみたい、そう思うの。
リル、もしあなたがこれを見ているのならわざわざ書かなくてもわかるわね。大丈夫よ。いつだって私はあなたの側にいるわ。生まれた時からそうだったでしょう。
あなたの幸せは私が守る。そして私も幸せになる。この約束は片時も忘れたことはないわ。
安心なさい、リル。お姉ちゃんは、強いから。
クロエ・デ・ノーブレット




