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西国の婚姻相手

 私たちはまず、リルに教えてもらったクロエさんの婚約相手がどういう人物なのかを探るため、週末を利用してその人が住んでいる街へと訪れた。



 街中を歩くと公爵の娘が王女様と婚約するだけあってか、まだ一か月先のことだというのにすっかり祝福ムードで賑わいを見せていた。



 国民の人にとっては喜ばしいことだけど、リルにとっては酷なことだろう。


 歩く途中で時折リルの顔を伺うと、下を向いて帽子の柄を頭と同化するつもりなのかと思わせる程に強く張っていた。


 それほどにリルにとってこの歓喜の声は苦痛なのだろう。何せ最も好きな人が他人と結婚するというのだから。


 私はリルの手を引き、この空間から抜け出そうと足を速めた。




 街の中心から少し外れ、いかにも貴族たちのお屋敷と言うような建物が並ぶ閑静な一画に出た。


 そこからさらに奥へと進んだ道の先に、行き止まりとしてそびえる大きな門。


 無駄に装飾が施されたそれは、道沿いの他の貴族にまざまざと見せびらかしているようにも捉えてしまう。


 こういう貴族はどの国も変わらないんだ。

 中にはいい貴族の人もいるけど、門からしてここの公爵は相当だ。

 数々の貴族を相手にしてきた私の勘がそう言っている。

 



 リルが帽子をとり門番に近寄ると、門番たちは驚愕し、さっきまでの静けさが一瞬でなくなった。


 ほんのしばらくすると両側の門が開き、公爵が直々に出迎えに来た。


 伝達なしの訪問に余程焦ったのか、顔が少々汗ばんでいた。


 公爵ともあろう者が王女を前にするというのに襟元が乱れ、余裕のない様で登場とは随分と失礼だ。


 その割には手を擦り合わせ腰を低くして、邸宅内に案内する姿は貴族として見るに堪えない。

 



 応接間に通され、メイドや執事たちの慌ただしいティーセットの準備が終わったところで私たちも顔隠しを外すと、今度はひえっと膝を地面につけた。


 ひえっなんて声に出して驚く人を見るのは初めてだ。

 ここまで狼狽されると知られたら不味い事でもしているのかと疑いを持ってしまう。




「いやはや、リル王女ばかりか東の国の王女様まで共にいらっしゃるとは、光栄……いや、末代までの誇りです!それで今回はどのようなご用件でしょう?」




 聞かれたリルから反応がなく振り向くと、えとえと……と落ち着かない様子で目を泳がせていた。


 私は咄嗟に代わりに答えた。




「この度、学友であり同じく王女のクロエ第一王女がそちらの息女と婚約されるとの一報を受けまして、恥ずかしながらぜひ一目お会いしたいと私がリル王女にわがままを申し付けたのです」


「それはそれはっ、嬉しい限りです。すぐに娘を連れて来させましょう!」


         

          ・

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「カーミラ・ハーツ、只今参りました。直々のお呼びに与り光栄の至りです」



 腰を曲げ、左手を胸元に当てる一連の動作はケイも挨拶の際に時々行う。

 腰に剣を据え立つ外見は正しく騎士と言える。


 堂々とした立ち姿、全体的に程よい細身の女性だ。

 外を歩けば世の女性の目を集めそうな人だ。

 ま、うちのケイには及ばないだろうけど。



 にしてもこの人、どこかで見た気が……




「ケイ・イリアス・ベルカ。先の試合ではお相手いただきありがとうございました……」

 



 あ、交流戦でケイが最後に戦ったというブレンノヴァイス学院の首席の人か。

 当時私は保健室で寝てたから、パーティーで少し見たくらいで印象薄かったんだ。




「ほほぉ、あなたがあの麗黒の騎馬でしたか。うちの娘が負けたと聞いてどんな不正が行われたのかと思っておりましたが、これは仕方がないというもの」


「いえ、私はたまたま運がよかっただけのこと。でなければ間もなく私が負けていたでしょう」




 ケイは言葉に気を払いながら事実を運のせいにした。

 ケイの実力を不正などと侮辱され、拳に力が入ったがケイの手が私の手の甲に添えられた。



 ここでようやく公爵が席を外すことになり、一度カーミラさんも退出した。


 自分のことをバカにされたのに、冷静を保てるケイはやっぱりすごい。

 私も見習わなければいけない……。


 ところで麗黒の騎馬って……?




「ユリアちゃんに話しを任せてしまってごめんね。私、こういう時はいつも姉ちゃんがやってくれてたからどうしていいかわからなくて……」


「そんなことだろうと思ったわ。もう、落ち込んでいるリルなんてリルらしくないわ!ほら、いつもの笑顔はどこにいったの?」


「うぅ、ぐすん………………ユリアぢゃあああああん!!ありがどおおおお!!」



 笑うように言ったはずが、リルは大泣きして私の胸に飛び込んできた。


 本当はこの街に来てからずっと辛かったはずなのに、頑張って耐えていたのがここに来て限界に達したのだろう。


 私はリルの頭を優しく撫でた。




「それはそうと……ケイはその目をやめて」

「だってユリアが……」

「はぁ……戻るまで我慢して」




 その瞬間、ケイはパーッと明るい表情になり、トレードマークの尻尾を左右に大きく揺らした。


 こういう時でも平常通りのケイは、ある意味尊敬する……。

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