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二人の時間

「ユリア。明日は休みだし、街に出よう!」



 今週最後の授業が終わると、ケイはやたらと明るい声でデートの計画を持ち出した。

 余程楽しみなのか、お馴染みのポニーテールがぴょこぴょこと動いているようにも見える。

 ケイは馬にでもなったの?



 確かに最近はお出掛けにも行けていない。きっと街では新作のスイーツが出始めている頃だろう。


 周りでも週末どこへ遊びに行くか予定を立てる話し声がちらほらと聞こえる。

 でも……。



「私、今週末は予定があるの。また今度にしましょ」



 ショックを与えてしまったようでケイはその場にすとんと腰を落とした。

 少し言い方がきつかったかもしれない。


 けど、今言った通り私にはやることが、やらなければいけないことがある。



 それは……





       ☆





「ふぅー……これは期待してたより面白みに欠けてたわね。よし、次!」



 積み上げられた未読の本を消化すること。


 読もう読もうと思って借り続けていたら、いつの間にかベッドの周りを囲んでしまう程になっていたのだ。


 交流戦までは気を使ってくれていたようで、前のパーティーの日に館長直々にお知らせしてくれた。


 図書館の棚には空きが何箇所かでき、私以外にも読みたい人が何人かいて本が戻って来るのを待っている状態だという。申し訳ないことをした……。



 だからと言って未読のまま返すのはどうしても嫌だった。

 私が借りたということは当時それなりに面白そうと思ったからで、返してしまえば今度いつ読めるのかわからないのだから。


 でもマイペースに読書を嗜むほど私もわがままではないと自負している。


 よって、これまでの読書から身に着けた速読力とミステリー本では推察力を生かして、推察が当たれば読み飛ばすという風に可能な限り効率的に消化していった。


 そのかいあって、現在は全体の4分の1の消化に成功した。

 とりあえずこの読み終わったのは返すとしよう。




 ………………あれ?持ち上がらない……。

 え、待って。思ったよりも一冊一冊が厚くて重い!?


 返すのだけでも往復して相当時間がかかりそう……。


 そしたらあっという間に夕方になって、最悪今日中に消化するはずだったところまで読めなくなる……!


 そうだ、ケイに手伝ってもらおう!



 …………いや、きっとデートに行けずに拗ねて言う事聞いてくれないかも……。

 

 あ~~ん、一体どうすれば~~!!




 頭を抱えていると扉からノックする音が聞こえた。



 私は扉を開けようと積まれた本を避け―――――





「ユリアッ!?今すごい音がした……けど……」



 ケイは床に転んだ私と、崩れ散らかった本を目の前にして固まった。



「ユリア……これは一体……」

「お願い。察して……」




 お願い通り察してくれたケイは散らかった本を積みなおし、読んだ本を代わりに返却してくれた。


 ケイは本当に頼りになる。でも決して便利屋だなんて思ってはいない。これだけは誓ってもいい。


 ケイが気が利きすぎる上に、優しくて頼りがいがあるからそう感じてしまうんだ。


 私だってそれに甘んじていることは重々承知している。

 だけどケイ本人がもっと頼れと熱望してくるのだから、余り拒否してもケイの事を考えたらかえって悪いだろう。


 

 だから、今ベッドの上で読書中の私を後ろから抱き枕のようにぎゅっと抱いているケイを離すのは免じてやろう。




 でも、その……。ケイの()()が当たって読書に集中できないのが欠点だ。

 抱いている以上仕方ないけど、久しくそれに触れてなかったから思わず意識してしまう。


 このままだったら今日中に読む予定だったところまでいけなさそうだ。

 読めなかった分は明日に回すことにしよ――――




「きゃあぁっ!?ケイ!いきなり何するのよっ!!」

「だって、目の前にきれいなうなじがあったからつい」



 髪が邪魔だからと髪を束ねてたのをいいことに、ケイはあろうことか本に集中しようとしている私のうなじを舐めたのだ。


 ただでさえ色々背中に当たって集中を欠いていたというのにコイツは!



「今度同じことしたら離すから!いい??」



 ケイはにこにこしながら指で輪っかを作った。

 いまいち信用できない……。


 先程と同じ体勢に戻り、しばらくすると今度は首元に顔を埋めてきた。

 ほらやっぱり、と前に出していた腕をつねった。



「ケイ~?」



 さっき言った事を覚えているか確認するように名前を呼ぶが、ケイは顔を振りさらに顔を埋めた。


 ケイの顔が首元で擦れてくすぐったい。

 私の前で組んでいる手を離そうとしても、さらに力を強めて抵抗された。



「ユリア……少しだけ……」



 そう小さく囁き、組んだ手の位置を上げる。



「そう言って、今まですぐに終わった経験ないんですけど?」



 呆れたように聞くとすぐ終わらせるからと言って動きを止めた。




「………………10分だ――――ちょっっ!?」




 全て言い終わる前にケイに押し倒され、10分の約束は守ったものの、今までで一番濃厚なキスだった。



 翌朝、鏡を見ると首元に赤い跡のようなものがついていた。

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