表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/158

私の誕生日のはずなのに……

 王都中央では重厚な鎧を身に纏った騎士兵とともに、

 ゆっくりと移動する煌びやかな馬車が国民たちを魅了した。

 



「わーっ、きれー! 母しゃま、あの子は?」

「あの方はこの国の王女、ユリア様だ。しっかりと見ておくんだ」




 王女のユリア様は馬車から顔を出し、

 ()()()()()で手を振っていた。


 それは輝かしく、

 まるで宝石と例えても遜色ないほどの……



「…………母しゃま、わたし決めましたっ。ユリアしゃまと結婚します!」



 少女を肩車をしていた母親は驚いたあと、静かに笑った。



「ならば、誰よりも強く、優しく……大切なものを守れるようにならなければな……」

「はい……っ!!」

「いい返事だ。流石は私とお母さんの子だな」



 少女は馬車が目の前を過ぎても、見えなくなるまでそれを目で追い続けた……





(絶対に、()()()()と結婚するんだ……!)





        ☆





〜〜(数年後)王城・ユリアの部屋〜〜



「ユリア様、そろそろご準備をしていただかないと、またエメラダ様のお叱りを受けてしまいますよ!」



 一人のメイドが困り果てたように扉の前に立ち、何度も小突いては私の説得を試みていた。



「だから私は出たくないと言ってるでしょ! どうせみんないつもみたいに適当なものを渡してきて、お母様たちにいい顔しようとしてるだけなんだわ! 私のことなんか祝うつもりなんてないのよっ!!」

「そのようなことはございませんユリア様っ。皆様、心からお祝いされているのですよ?」


 

 私はメイドの説得を頑なに反発する。


 

 頬に手をあて、困ったように溜息をこぼしている。

 そんな時、廊下の奥からコツコツと床を叩く音が。


 背筋をピンっと張ったメイドは、音の主がいる方向へ体の向きを変えた。




「エメラダ様っ……!」

「あなたは元の仕事に戻りなさい」




 命令を受けたメイドはスカートの両端を摘まんで会釈すると、足早で自分の本来の場所へと戻っていった。



「ねえ、ユリア、あなたは今日で十二になるのよ。その意味が理解できないあなたじゃないわよね?」




 私は黙り続けた……。




「……そう、わかった。これ以上は言わないわ……」



 ヒールの音が部屋の扉から遠ざかっていった。



「お母様、今日は怒らなかった……」




 今日が自分の誕生日である以上に、12歳を迎えることが節目として重要な歳であることはわかっていた。


 形式的な誕生日パーティと、その度に吐かれる空虚な祝いの言葉に辟易としながらも今まで我慢してきた。



 それなのに今度は……!



 涙をこぼしそうになったが、目を腫れさせてはいけないと上を向いてこらえた。


 上下の歯をがっちりと嚙み合わせ、拳を握りしめる。


 やけくそ混じりに叫び、メイドたちを呼びつけた。


 そして艶やかな装飾と衣装に身を包まれていった……。






 準備が終わり、会場である大ホールへ二重の意味で重い足を進める。

 すると会場へ続く廊下に何人ものメイドたちが両端の壁に沿って並んでいた。



「ユリア様、皆様がお待ちです」

「わかってるわ。ふぅ……」



 軽く呼吸を整え、全身が大ホールの明かりに包まれるより先に、会場全体から割れんばかりの拍手が沸き上がった。


 私は会場の端から端までの人々に()()で手を振り、壇上のテーブルの一つだけ空いた席に、上品に、ゆっくりと座った。


 そこからは会場一体を見渡せ、私たちを見上げる者、楽しそうに談話している者などで賑わっている。


 会場を見る限り、見知った顔よりも初めて見る顔が多い。

 いつものパーティーとは明らかに違う……。




 父である王様の挨拶が終わると、国一のオーケストラによる演奏とともに舞踏会が始まった。

 大人たちは飲んでは踊り、食べては上っ面を窺う薄っぺらい話ばかり。



 最初から理解していた。

 名目上は自分の誕生日。

 しかしその実は、王族と貴族たちの大規模な交流パーティーなのだと。



 それでも私は、問わずにはいられなかった。




『私の誕生日パーティじゃなかったの…?』




 自分の誕生日パーティの意味を問いつつ、味がしない料理を何度も口に運んだ。




 しばらくしてふと意識を会場に向けると、さっきまでの賑わいが落ち着いていた。

 いつの間にかパーティーが終盤に差し掛かっていたのだ。

 そして周りがざわつき始めると、何人かの男女が私たちの前に並び始めた。



「これより、ここにおります私の娘、ユリア・グレース・ルイスに相応しい婚約者候補を決める剣闘式を執り行います!!」



 

 何が相応しい婚約者よ!

 お父様の大バカ!大っっっ嫌い!!

 一緒になって喜んでる人たちもみんな大嫌い!!

 全員悪魔に食われてしまえばいいんだわ!!




 心の中で不平不満を言っている間に、婚約者立候補者たちは庭園の広場に、来客たちは庭園を臨める大ホール横の回廊に移動していた。



 メイドに外へ出るように促され、渋々誘導に従い候補者たちに目を向けた。



 ブロンド色のたてがみを手ぐしでかき上げる公爵の息子。その左は大商人の跡取り息子。

 その時ユリア様はふと思った。

 肩幅が大きくて……確か図鑑に似たような動物がいたような……?



 続いて、キツネ、耳でか、派手パーマ、短足、女の子……。




「……ん? 女の子??」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ