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桃の節句

作者: 金澤みやこ

この世には知らなくて良いこともたくさんある。人間たちがひな祭りをしている間、あやかしと戦うお雛様たちがいた。

「ヒノヒカリを浴びるのはいつぶりじゃろうか」

「今年はこの家の者たちは私達をおもての世界に出してくれたのだな」

「10年前とは別の血の者がいたが、新たな命がうまれたということか」

「では、今年はこの者たちを守るためにあやかしと戦おうぞ」

「なに、少し腕がなまっているかもしれぬが、任せておけ。さて、皆の者!出陣じゃ!」


如月の月に我らは飾られた。その夜、左大臣と右大臣から招集がかかった。

「弥生の月までにあやかしが少しずつ出現する。決戦は3日」

「それまでにあやかしを残らず殲滅させるのだ」

「五人囃子たちが向かってくるあやかしを迎え打つ。我らは弓で後方支援する。仕丁は我らに続くのだ」

「そして三人官女は内裏雛を守るのだ」

「御意」


内裏雛は皆に告げる。

「皆、気をつけるのだぞ」

「ご武運をお祈りいたします」


赤子がいる家には必ずあやかしが忍び寄る。赤子はあやかしが見えるので怖がって泣く。もし泣かぬ赤子がいたら即座に食べられてしまうから。人間が大きくなってからも、あやかしは病などをばらまく。怒り、憎しみ、妬み、僻み、それらは薬では治すことができない。心の病だからだ。人間は儚く脆い。だからあやかしを寄せ付けぬようまつりごとや祝いをして邪気を追い払おうとしている。我らはそんな人間の優しさや暖かさを知っている。だから手助けをするのだ。あやかしたちと戦えるのは我らだから。


夜にふすまの間から黒い闇が現れる。五人囃子たちが脇差を手にあやかし退治を繰り広げている。

「さて、ひさしぶりのあやかし退治か」

「腕がなるねぇ」

「兄さん」

「お前たち、気を抜くんじゃないぞ」

「わかってるよ」


黒い闇からでてくるあやかしたちは五人囃子に向かって襲いかかる。

「さあ、かかってきなさい」

「僕達が相手だ!」

五人囃子たちは脇差しを抜き、襲いかかるあやかしたちを斬る。刀は光輝き、あやかしたちは斬られてはまたでてくる。家の周りにはまだあやかしたちが土からでてきてこの家の者たちを食べようとしている。右大臣と左大臣は屋根の上から弓であやかしたちを射る。弓から放たれる光の矢であやかしたちは声もなく消えてゆく。しかし次から次へとあやかしたちはわきでてくる。

「くそっ、キリがないな」

「夜明けまでもう少しだよ、兄さん」


次々にやってくるあやかしたちに少し疲れがでてきた宵闇の時間。突然風が吹き、巨大なあやかしが出現した。

「なんだあいつは」

「あやかしの親玉か」

巨大なあやかしの一振りに足を踏ん張るも、大きくも勢いのある力に五人囃子たちは体勢を崩される。

「くっ」

「右大臣!」

叫び声が聞こえたと同時に弓矢が放たれる。あやかしに何本か刺さるが、闇に吸収されていく。

「何だと!?」

「われらの力だけではあやつを抑えきれない」

「仕丁たちよ、三人官女に伝えよ」

「わかりました」


仕丁たちが三人官女の元へ急ぐ。あやかしたちも追いかけてくるが振り払えない。

「おぬしがいけ!われらが食い止める」

二人の仕丁があやかしを食い止めている間、一人の仕丁が家の奥へとすすむ。

「三人官女!」

息を切らせた仕丁は用件を伝えると気を失った。

「どうしました」

「左大臣からの伝言です」

「わかりました」



内裏雛は立ち上がり、舞を始める。それはこの土地と家の穢れを祓う浄化の力。五人囃子の太鼓と笛の音が聞こえる。数え切れないほどのあやかしを倒し、弱まっていた力が少しずつ回復していく。そして右大臣、左大臣が巨大なあやかしに今までで一番大きな光の矢を一斉に放つ。あやかしは、ついに力尽きて倒れた。


そして夜明けがくる。私達の役目は果たされた。この家の者と土地を守れたようだ。

「お前たち、よく頑張った」

「誠に立派でした」

「内裏雛様」

「ありがたきお言葉」

「くたくただよ」

「お酒でも飲んで宴をしようぞ」

「やったー」


「今年もみな頑張ってくれました」

「だが年々、あやかしたちは力を増していっている」

「そうですね」

「しかし、我らにはあのお方がいらっしゃるから大丈夫」

「そうですね」

そうして3月3日の桃の節句はあやかし退治をしてまた来年まで眠りにつくお雛様たちがいるのであった。



おわり

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