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【連載開始!】毎日5分の片想いから始まるピュアピュアで甘々な恋物語

作者: 高峰 翔


「やばいやばいやばい! ちょっと寝坊した!」


 車掌さんが駆け込み乗車はおやめくださいと呼びかけているけど、ごめん。今日だけは許してほしい。

 俺は7時20分の電車に乗る必要があるんだ!


「危なかった……ギリギリセーフ」


 ドアが閉まるスレスレで何とか電車に乗ることに成功。

 これが都心の満員電車とかなら乗客に白い目で見られるか、そもそも人が多すぎて乗れないんだろうな……。

 

 まあそんな杞憂をする必要は俺には無い。

 ここは田舎でも都会でもない、中途半端に開発が進んでいる地方の町だ。

 通学、通勤時間だというのに電車はめちゃくちゃ空いてる。

 だからこうして始発じゃない電車でも普通に角の席に座れる。


 5号車2番ドア、電車の進行方向基準で右の席の角。

 ここが俺の特等席。

 いつしか俺はこの時間の電車のこの席に必ず座る様になっていた。


「まもなくー虹橋、虹橋。お出口は左側です」


 電車がゆっくりと停車して、アナウンス通り左側のドアが開く。


 来た……。


 艶のある長い黒髪を左右に揺らしながら電車に搭乗する1人の女の子。

 同じ号車に乗り合わせた人たちが性別問わず、思わずその子に目を奪われる。

 それは、その子が着ているのが全国屈指の偏差値を誇る超絶有名なお嬢様学校、麗秀学院の制服だから……という理由ではない。


 本来なら真っ先に制服に目がいくだろう。

 1学年100人の超が付くエリート学校なのだから。


 しかし、乗客の目線は制服の上。

 その子の顔に向けられている。


 左右均等な二重の大きな目を中心に、眉毛、鼻、口が完璧な配置で整えられている。

 今までこれほどまで美しく、可愛い人を俺は見たことが無かった。

 中学までの同級生はもちろん、芸能人だって比じゃないくらい。

 

 人の顔をジロジロと見るのは失礼とみんな分かっているのに、乗客の視線はその子の顔に釘付けだ。

 その子もその子で見られるのに慣れているのか、特段気にする素振りを見せず、空いている端っこの席に座った。

  

 計算通り……。


 この子は絶対にこの時間に虹橋駅に着く電車の5号車2番ドアから乗車し、入って右側の席の端っこに座る。 

 つまり、今俺が座っている席の真正面。

 

 スマホを弄る振りをして正面に座る超絶美少女を覗き見る。

 カバンから文庫本を取り出し、最初の1ページを開いているところだった。 

 前に垂れる長い髪が邪魔なのか、大雑把に纏めて耳に掛ける仕草がもう既に美しい。


 この女の子は基本的に携帯を弄ることは無く、電車内では読書をしている。

 流石お嬢様学校といったところか、知的なイメージにぴったり当てはまる。


 こんな風に電車内でこの子を見るようになって4か月が経とうとしている。

 別に俺はストーカーなんかじゃない。

 わざわざこの超絶美少女と同じ電車に毎日乗り、真正面の席を確保。相手に気づかれない様に、今日は何をしているのかとチラチラと覗き見る……改めて整理してみると何だか危ない気がするけど、断じてストーカーじゃない。


 これには深ーい訳がある。


 俺は高校受験をそれなりに頑張り、無事に第1志望合格。

 晴れて有名大学進学率が高い都内の高校に通うことになった。

 本来俺の学力からかけ離れていた偏差値だったので、親は大喜び。

 俺ももちろん努力が実って嬉しかった……が。


 ところがどっこい、致命的な問題が1つ。

 俺が受かった高校は男子校……つまり女子が1人もいない空間。


 おはよう、と笑顔で声を掛けてくれる女子。

 忘れ物をしてしまい、仕方なく1つの教科書を机をくっつけて一緒に見る女子。

 体育祭で応援をしてくれる女子。

 文化祭を一緒に回る女子。

 徐々に惹かれ合ってお付き合いすることになる女子。


 そんな甘い青春は第1志望合格と共に儚く砕け散った。


 3年間女子との関りが一切ないという絶望的な状況の中で、俺はオアシスを見つけた。

 それが今。

 俺史上1番美しく可愛い女の子を拝めるこの時間。

 

 俺は都心にある高校行きの電車に乗り換えるために、この子が乗車してくる虹橋駅の次の駅でこの電車を降りる。

 だから、この子と一緒の空間にいられるのは1駅分の時間、僅か5分の間だけ。

 

 それでもいい。

 たった5分の登校時間。

 名前すら知らない超絶美少女をただひたすら密かに見つめるこの時間が、地獄の男子校生活の中で見つけた俺のオアシスだ。


「まもなく桐山町、桐山町。お出口は左側です」


 ああ、今日も相変わらずめちゃくちゃ可愛かったな……。

 昨日読んでいたミステリー系の本は読み終わったのか、今日は感動系のラブストーリーを読んでいた。

 

 やっぱりあんな可愛い子も運命の王子様との恋愛に憧れたりするのかな。

 麗秀学院は女子校だし、男と巡り合う機会なんてなさそうだけど……はっ!?


 もしかして、これはチャンスなのでは?

 俺が勇気を出して声を掛けてお知り合いに。

 毎日5分のお喋りから徐々に仲が深まり、連絡先を交換。

 放課後待ち合わせをして遊びに行ったりして、行く行くは恋仲に……。


「……無いな」


 そんな少女漫画のような甘い妄想を誰にも聞こえない声で否定……したつもりだった。


「……?」


 声が思ったより大きかったのか、それとも隠れて見ていたのがバレたのか。


 どちらにせよ目の前に座る超絶美少女とばっちり目が合ってしまった。


 そしてニコッ、と超絶美少女が俺に笑いかけてきた。


 何だよそれ、反則だろ……これで惚れない男がいるか? いや、いない。

 冗談抜きでこの子は世界で1番可愛いんじゃないかと思う。

 こんなチラチラと覗きしてる俺なんかにも笑顔で対応してくれるなんて、顔だけじゃなく性格まで最高なのか……。


「ご乗車ありがとうございました。桐山町、桐山町、お出口は左側です」


 やっべ、思わず見惚れて時を忘れてた。

 名残惜しい特等席を後にして、閉まりかけのドアをダッシュですり抜ける。

 

 くそっ、偶然とはいえ、せっかく4か月の時を経て目が合うという進展があったのに!

 もしもう少し時間があったら勇気を出して喋りかけたり出来たかも……って絶対無理だな。

 4か月ずっと真正面の席に座るので精一杯だったんだから。

 俺はこれからもこの5分間のオアシスを1人で楽しむんだろう。


 というか、あの子の真正面に4か月も座れていること自体奇跡だよな。

 俺は完全に狙ってあの席に座ってるけど、あの子には俺の真正面に毎日座る必要なんてこれっぽっちもないはずだ。

 いつか何の前触れもなく、俺の目の前にあの女の子が現れなくなる可能性がいつだって高確率であった。

 そう思うと、4か月もこのオアシスが続いているのは奇跡と言っても過言ではないだろう。


 あの席に絶対に座りたい理由がきっとあるんだろう。

 本を読むのに一番適してるとか?

 それとも乗り換えするときに便利とかかな?


 うーん、わからん。


 まあ、理由なんて考えても仕方ない。

 1つ分かるのは、今日目が合ってしまったせいで明日から彼女が他の電車か席に行ってしまう可能性が高いってことだ。


「よし、決めた。明日、もしあの女の子が同じように現れたら勇気を出して声を掛けよう。男なら行動あるのみ、当たって砕けろだ!」

 

 今日は1日、明日もあの子が俺の真正面に座ってくれることを祈りながら、なるべく自然に話しかけれるように練習しよう。


 声を掛けた結果、ドン引きされて避けられる可能性の方がずっと高い。

 けど、今日分かった。このまま乗客Aで終わるよりは、行動してほんの少しの可能性に懸けたい。

 頑張れ明日の俺!


 一目惚れした女の子……仲良くなりてえええええ!







--------------------









 「はーっ……びっくりした……」


 まさか目が合うなんて思わなかった。

 

 降りる駅と、毎日同じ席に座ることしか知らない男の子。

 私があの男の子を好きになってから4か月間、話しかけるのは絶対無理だけど、せめて少しだけでも同じ空間にいたいと思って真正面の席に座り続けた。

 スマホを弄って時間を潰す彼と、読書をする乗客A。

 ただそれだけで良かったのに、今日初めて目が合ってしまった……。

 しかもパニックになって笑いかけちゃったし……。


 あー、死にたい……絶対不自然な笑顔だったし、気持ち悪いと思われた。

 どうしよう。これが原因で路線変えたり、座る場所変えられたら……。

 

「最悪だ……。せっかく見つけた私のオアシスなのに……」


 そもそも4か月間もあの男の子の前に座り続けて避けられなかったことが奇跡だったんだ。

 いつか何の前触れもなく、私の目の前にあの男の子が現れなくなる可能性がいつだって高確率であった。

 その時が明日の可能性が高い。


 中高女子校の私に初めて出来た好きな人……だったのになあ。

 勇気を出して声を掛けてみれば良かったかな。

 最初は世間話をするくらいの仲から初めて、それから連絡先を交換して徐々に仲良くなって。

 放課後遊びに行ったりして仲が深まったら告白……。


「ってもう無理かあ……。決めた、もし明日も会えたら勇気を出して声を掛けよう……。もうなりふり構ってられないよね!」


 今日1日、明日もあの男の子がいつも通りの席に座っていることを願いながら、なるべく自然に話しかけれるように練習しよう。


 例え声を掛けて気持ち悪がれた結果、私のオアシスが消えてなくなってもいい。

 今日分かった。何もしないであの男の子と会えなくなっちゃうなら、少しの望みを賭けて行動した方がいい。

 頑張れ明日の私!

 

 初恋の男の子……仲良くなれたらいいな。




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― 新着の感想 ―
[一言] 読み終わった後、タメ息が出ました。 こんなのが書けたらな……と思いました。 別の作品も読まさせて頂きます。 有難うございました!
[良い点] 短編は徳が高いです。はい。(強意) こういうちょっとした互いの気持ちを自然に小説に織り込むって、なかなかできた事じゃないです。続きがあれば、読みたいです。どうかお願いします。
[良い点] やったー連載だー [一言] 頑張って下さい!
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