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◆9:終章◆

「おい、彼女とのデートはどうだった?」

 東堂が俺に声をかける。

 金曜の空き時間、大学の学生食堂である。

「彼女とのデート?」

 俺は聞き返した。

「おいおいおいおい、まさかデートの存在を忘れててすっぽかしたせいで別れたとか言うなよ?」

 東堂は呆れ気味に言うと、俺の向かいに座った。

「ん? 時計、買ったのか?」

「え?」

 俺は、学食の壁掛け時計が新しくなったのかと、後ろを振り向いた。

「いやいや、違う、そっちじゃない。それだよそれ。お前が今手首につけてるやつ」

 東堂の言葉で、自分の手首に目を落とす。そこには時計が巻かれていた。

 そういえば最近、時計をよくつけるようになった気がする。しかし、あまり使っていない。『時計をつけている』こと自体を、普段、忘れているからだ。ちょうど今のように。

 しかし……、はて、この時計、一体どうしたのだったか?

 俺は財布を取り出し、中身を確かめた。この前入ったバイト代が、普段よりも早いペースで減っている。

「たぶん、自分で買ったんだと思う」

「買い物したことくらい覚えておけよ……。結構いい値段したんじゃないのか?」

「さあ……」

「………………」

 東堂は溜息をつくと、「そんなことより!」と話を切り替えた。

「彼女だよ彼女! デートしたんだろう? どこまでいったんだ?」

「さあ……」

「はぐらかすなよ! ……そういえば、俺は彼女が陰のある年上の女性としか知らないな。名前はなんていうんだ?」

「名前……?」

 突き落とした瞬間は、まるでスローモーションのように脳裏に焼きついている。彼女の、理解の追いついていない表情。風を受け広がる長い黒髪と白い簡素なワンピース。左袖から覗く白い包帯。そして、耳で揺れる、儚げな青色のピアス。

 しかし、俺は、

「…………名前は、覚えてない。忘れてしまった」

 俺は手元の緑茶を飲み干した。

 向かいで何か言っている東堂を無視して、携帯で時間を確認する。

 時刻は昼過ぎ。ちょうど、一日で最も眠い時間帯だった。

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