◆7◆
洋食店を出たあとは(財布を出そうとする香澄を引き止め、きちんと俺が支払いをした)、近くの大通りにて、香澄とウィンドーショッピングを楽しんだ。香澄はよく店の前で立ち止まり、ガラスの向こうの商品を興味深そうに眺めていた。店内に入るかと聞くと、ときには断り、ときには了承した。眺める店は、雑貨店、文房具店、書店、時計店と様々で、俺には足を止める法則がいまいちわからなかった。
一軒の雑貨店の前で香澄が足を止めるので、例に漏れず入るかと聞いた。
香澄はしばらく黙りこくったあと、「入る」と宣言した。
店内に入ると、棚の上に商品が煌びやかに展示されていた。香澄はそれらをきょろきょろと見回しながら、一つの棚の前で足を止めた。
そこは、女性用の細かなアクセサリー類が陳列された、レジに近い棚だった。香澄が商品の一つを手に取る。
イヤリングだ。三角形の金属の枠に、透き通るほど薄い青い素材が嵌め込まれており、そのパーツとイヤリング部分をチェーンが繋いでいる。金属部分はすべて金色だ。香澄の細い指の先で、魚の鱗のようなそれは光を反射しながら揺れた。
「これ、かわいいね」
香澄がじっとイヤリングを見つめる。俺もイヤリングを見つめた。
透き通った青色は微かに向こう側を映している。とても薄いパーツだ。触れれば壊れてしまいそうなほどに。
香澄がイヤリングを見つめたまま、特に喋らず、特に動こうともしないので、俺は「貸して」と香澄からイヤリングを取り上げた。
そしてそのままレジへ向かい、支払いをした。
店員がラッピングするかどうか尋ねたので、今この場で使用したいことを伝える。
香澄が慌てて俺の元へ駆け寄ってくる。
「そんな、悪いよ! たしかにちょっとかわいいなって思ったけど、君に買わせるつもりじゃなくて……」
「いいんです。俺がプレゼントしたいので。それに」
触れれば壊れてしまいそうな、儚さを孕んだ、イヤリング。
「とても、似合うと思ったので」
「………………」
「つけてみてください」
香澄はためらいがちにイヤリングを受け取ると、それを両耳につけて、俺に見せた。
「……どう?」
香澄が、黒い髪を耳にかける。
イヤリングが揺れ、光を反射する。儚げなそれは、まさに、香澄のためにあるかのように思えた。
この儚く壊れそうな美しさにこそ、バイトで稼いだ金を使う価値がある。
そう思ったから、購入した。
そして、それが間違っていなかったことを、改めて確認した。
「似合っています。とても」
香澄は、嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
そのあと、喫茶店で休憩し、しばらくお喋りをして、その日は解散となった。