表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

◆7◆

 洋食店を出たあとは(財布を出そうとする香澄を引き止め、きちんと俺が支払いをした)、近くの大通りにて、香澄とウィンドーショッピングを楽しんだ。香澄はよく店の前で立ち止まり、ガラスの向こうの商品を興味深そうに眺めていた。店内に入るかと聞くと、ときには断り、ときには了承した。眺める店は、雑貨店、文房具店、書店、時計店と様々で、俺には足を止める法則がいまいちわからなかった。

 一軒の雑貨店の前で香澄が足を止めるので、例に漏れず入るかと聞いた。

 香澄はしばらく黙りこくったあと、「入る」と宣言した。

 店内に入ると、棚の上に商品が煌びやかに展示されていた。香澄はそれらをきょろきょろと見回しながら、一つの棚の前で足を止めた。

 そこは、女性用の細かなアクセサリー類が陳列された、レジに近い棚だった。香澄が商品の一つを手に取る。

 イヤリングだ。三角形の金属の枠に、透き通るほど薄い青い素材が嵌め込まれており、そのパーツとイヤリング部分をチェーンが繋いでいる。金属部分はすべて金色だ。香澄の細い指の先で、魚の鱗のようなそれは光を反射しながら揺れた。

「これ、かわいいね」

 香澄がじっとイヤリングを見つめる。俺もイヤリングを見つめた。

 透き通った青色は微かに向こう側を映している。とても薄いパーツだ。触れれば壊れてしまいそうなほどに。

 香澄がイヤリングを見つめたまま、特に喋らず、特に動こうともしないので、俺は「貸して」と香澄からイヤリングを取り上げた。

 そしてそのままレジへ向かい、支払いをした。

 店員がラッピングするかどうか尋ねたので、今この場で使用したいことを伝える。

 香澄が慌てて俺の元へ駆け寄ってくる。

「そんな、悪いよ! たしかにちょっとかわいいなって思ったけど、君に買わせるつもりじゃなくて……」

「いいんです。俺がプレゼントしたいので。それに」

 触れれば壊れてしまいそうな、儚さを孕んだ、イヤリング。

「とても、似合うと思ったので」

「………………」

「つけてみてください」

 香澄はためらいがちにイヤリングを受け取ると、それを両耳につけて、俺に見せた。

「……どう?」

 香澄が、黒い髪を耳にかける。

 イヤリングが揺れ、光を反射する。儚げなそれは、まさに、香澄のためにあるかのように思えた。

 この儚く壊れそうな美しさにこそ、バイトで稼いだ金を使う価値がある。

 そう思ったから、購入した。

 そして、それが間違っていなかったことを、改めて確認した。

「似合っています。とても」

 香澄は、嬉しそうに笑った。

「ありがとう」


 そのあと、喫茶店で休憩し、しばらくお喋りをして、その日は解散となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ