表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

留守番ビスケット

作者: 夕空心月

もしかしたらこれは、自分の知らない記憶。

雨の音はいつだって

優しくて冷たくていとおしい


重いカーテンをすこし開くと

世界は一面灰色で

私はすこしほっとする


あまりに外の世界が美しければ

私は耐えられなくなってしまうから


古時計が音を鳴らす

何千回目かの午後三時

誰もいないリビングは

私にはあまりに広すぎる


雨粒が屋根をたたく音と

秒針が時間を刻む音と

私が息をする音が

遠慮がちに佇んでいる


立派な木のテーブルの上には

三時のおやつのビスケット

古時計が鳴りやんで

私はビスケットに手をのばす


甘くて分厚くて

とても冷たくて

私はすがるように求めるように

ビスケットを頬張る


粉くずが散らばる

夢中で頬張る

満たしたくて満たしたくて

私は必死でかじりつく


玄関のほうで音がする

ママが帰ってきた音だ

私ははっと目を覚ます


私は私に帰らなくちゃ

私はママの娘に帰らなくちゃ


最後の一口を飲み込んで

甘い後味を水道水で消して


私は私に戻る

「ただいま、ママ」


また、明日。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ