84話 親友
慌ただしいストレッチが終わり、小桜家で夕食をご馳走になった後、3人で勉強会となりました。学年がバラバラだけど、だからこそ教わる・教えるという行為が発生して、それがイイ経験になっていると俺は思っている。それに勉強する人が傍にいれば、それに引っ張られて自分の勉強も捗るという相乗効果もある。あるのだが、今の俺は集中できずに檜山先輩の話を思い返している。
全てが終わった話で問題も解決済、今もイイ方向に進んでいる以上、もう下手にかき回さず、今まで通り小桜さんと接する。これ以外の答えがないかずっと考えたけど、一向に何も思い浮かばない。
好きな人の為にと意気込んだ結果がこれか。
だから深く反省して、この話は一旦保留にしようかな? 俺にも何か出来る事がある筈とイキり立って無理に行動するのは、どう考えても悪手だ。だからこれまで通りに、小桜さんと接するのが正解なのかもしれない。
むしろ問題なのは小桜さんの過去よりも……、
「お兄ちゃん?」
「あっ、ごめん美羽ちゃん、ちょっと考え事してた」
「勉強中は集中しなきゃ駄目です。一体何を考えていたんですか?」
「ちょっと、小桜さんの友達に言われた言葉を」
「えっ? お姉ちゃん友達いるんですか?」
おおう、めっちゃ失礼な物言いだな。
そしてこの反応に美羽ちゃんもタジタジで、慌てて弁明を始める。
「ご、ごめんなさい。お兄ちゃん以外に親しい人、見た事も聞いた事もなかったので」
「小桜さんにも友達くらいいるよ。俺は1人しか知らないけど、クラスでは他にも親しい人いますよね?」
クイッ (視線を逸らす)
えー、もしかして居ないの?
まぁでも証拠はないし追及もアレだから、そっとしておこう。
「その人は檜山まどかって人で、小桜さんとは中学からの仲だよ」
「へぇー、じゃあその檜山さん、この家で一緒に遊んだりしたんですか?」
「うっ、ええっと、来た事があるとは言ってたかな」
意図せずデリケートな話題になってしまった。
小桜さんの過去を、きっと美羽ちゃんは知らないし、知られない方がいい。そして当の小桜さんはダンマリで、いや元々ダンマリだけど、話し辛いオーラが出まくりで、そんな姉の様子を美羽ちゃんが吟味してから、
「やっぱりこの家が広すぎて、来てくれなくなったんですね」
美羽ちゃんのお金持ちコンプレックスのせいで誤解されたけど、その方が都合いいから追求は止めておこう。そんなこんなでこの話題を打ち切ろうとしたら、
「………………………………………まどかちゃん、もう来ないのかな?」
それは久々に聞いた小桜さんの、自然に漏れてしまった呟きだった。この寂しそうな言葉に俺と美羽ちゃんは顔を合わせた後、尋ねてみた。
「小桜さん、檜山先輩に来てほしいんですか?」
コクコク(首を縦に振る)
この頷きに、俺は応えたい。
過去は変えられないし、昔の小桜さんを助けるのは不可能だ。
けど今の小桜さんなら、助けられるかもしれない。だから、
「小桜さん、ちょっと手伝ってくれませんか?」




