76話 変化
「うふふ、また来ます」
「うん、いつでもどうぞ」
それから萌香ちゃんの荷物を纏めて、母が車で萌香ちゃん親子を送る事になったのだが、別れ間際の会話が聞こえてきて、
「すみません羽生さん、後日お礼に伺いますので」
「いえいえ、こちらも楽しかったですから」
「うふふ、羽生おばさん、ありがとうございました」
あー、やっぱりね。
キョトンとした美羽ちゃんをとりあえず放置して、最後に一言と断ってから、萌香ちゃんを呼び寄せる。
「いつから気付いてた?」
「うふふ、出会ってすぐの兄妹会議中」
「あれ? その日の夜、母さんが車で家に送った時じゃなく?」
「うふふ、その時もおばさんから説明されましたが、兄妹会議中にお兄さんの机チェックで『羽生』の文字を見つけたので」
あー、そういえばあの時、俺の机の前にいたなぁ。そんな感じで答え合わせをしていたら、美羽ちゃんが前に出てきて、
「ごめんなさい! つい勢いで嘘をついてしまいました!!」
この謝罪に、萌香ちゃんの答えは、
「うふふ、全然怒ってない。家庭事情は人それぞれ」
そんなアッサリとした答えが返ってきて、じゃあ今までの苦労は何だったんだと、それが無性に可笑しくて、皆で笑ってしまった。
「うふふ、とっても楽しかった」
「うん、私も」
今週、2人はずっと一緒だった。一緒に登校、一緒に下校、一緒にお料理、一緒にお風呂、一緒に睡眠と、もう俺と美羽ちゃんが兄妹というより、美羽・萌香ちゃんが姉妹って思える程に。
「うふふ、じゃあね美羽」
「うん、またね萌香」
そうして萌香ちゃんが去った後、
「お兄ちゃん。私、お父さんと話してみますね」
「うん。それでいいんじゃない?」
家庭には色々な形があって、勿論事情も様々だ。きっとそれは美羽ちゃんも知っていた筈だけど、小桜家から離れて、違う常識に触れた事で、何かが変わったのかもしれない。だからこの変化が、美羽ちゃんにとってプラスになってほしいな。
こうして騒がしい兄妹騒動が終わり、美羽ちゃんも小桜家に帰っていった。……行ったのだが、小桜さんが更に不機嫌になっちゃいました。その理由は多分、2人に頭を下げられて譲った俺の中学時代のワイシャツを、毎晩パジャマ代わりに使っているからだろう。
いや、2人ともノリノリの遊び気分で、特に深い意味はないと思いますけど。
これで番外編終了です。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




