72話 鉄の掟
高校から帰宅したら、既に帰っていた美羽・萌香ちゃん共々、我が家の軽自動車に押し込まれて、行き先は近所のスーパー、4人で買い物となりました。
「お兄ちゃん、今日は美羽にお任せです!」
そして買い物と夕食は美羽ちゃんに託すと母が提案して、この張り切り様である。
子供に色々任せてみるのはイイ事だ。俺も小学生だった時に同様の事をさせられ、半額シールに惑わされたり、余計な物を買ったりで、失敗したっけなぁ。
本来なら俺が荷物カゴを持ちたかったけど、松葉杖なのでカゴは萌香ちゃんに任せて、後ろで見守るとしますか。
そんな感じで買い物が始まったのだが、まず美羽ちゃんは母に今の冷蔵庫事情を聞いてから、スーパー入口にある今日のチラシ広告を凝視、それから一直線に魚コーナーに向かって、
「良かったです。冷凍サンマ5匹で398円、まだ残ってます」
そうして色艶が良さ気なのを5匹選んだ後、野菜コーナーに戻り、もやし2袋・カボチャ1/2カットを選択、それから一番安い豆腐1丁を選び、ちらっと見切り処分コーナーを確認してから、
「じゃあレジに行きましょう」
「はやっ! もう終わり!?」
小学生とは思えない無駄のない動きで、おやつコーナーなんて立ち寄る所か、見向きすらなかったよ。
「美羽ちゃん、もっと買っても大丈夫だよ? あっちに半額になった食材があるけど」
「お兄ちゃん、あのシールは罠です」
「罠?」
「はい。美羽が若かった頃、騙されました」
若かった頃って、10歳だよね? いつの話?
だけど本人は苦々しい、本当に悔しそうな表情で、若気の至りを全力で後悔している様だ。10歳なのに。
「それに半額シールに群がる人達には、共通点があります」
「ええっと、どんな?」
俺と萌香ちゃんが顔を見合わせた後、美羽ちゃんが前のめりになってから
「殆どの人が太ってます。半額だから買い過ぎ・食べ過ぎは節約じゃなく『半額の買い物が出来て嬉しい!』って感じるだけの自己満足です! なので半額シールは1つまで、買ってから24時間以内に使い切る。これは鉄の掟です!!」
お、おおおおおう。
小学生とは思えない物言いで、そんな鉄の掟を持った10歳がいたとは。
「じゃあ、あのグラム100円以下で半額になった豚肉は? サラダに付け足してみるのも…」
「お魚とお肉を同時に食べるなんて、贅沢の極みです!」
「あっ、はい」
もうどっちが年上なのか分からないレベルで、後ろでずっと笑っていた母と一緒にレジに向かい、取り残された俺と萌香ちゃんは
「萌香ちゃん。美羽ちゃんって、クラスで浮いてないよね?」
「うふふ、美羽はしっかり者で、先生の反応も良好」
そんなこんなで、5人分の食材なのに1000円以下に収まった買い物が終了。そして夕食に並んだのは。
・焼きサンマ
・もやしとキュウリの中華サラダ
・カボチャの煮物
・わかめスープ
・冷奴
※キュウリ・ワカメは家に残っていたのを使用
とても健康的でボリュームたっぷりな夕食でした。




