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小桜さんは義理堅い  作者: 奈瀬 朋樹
第1章:入院生活編
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06話 汚れっちまった悲しみに

ずいっ、ずいっ


メジャーを構えながら迫って来る小桜さんは、目がグルグル・口もアワアワ開きっぱなしのパニック状態で、もう本人ですら自分が何をしているのか分かってない感じだ。そんな謎の執念と見えざる力に突き動かされる小桜さんに、もう何を言っても無駄っぽいので、ここはもうさっさと終わらせるしかない。


「分かりました。ただゆっくり、ゆっくりでお願いします」


コクコク(首を縦にふる)


左足は包帯グルグルだけど、腰は随分回復して、ゆっくりなら動かせる様になっている。なので体を起こしてから両手を水平に上げると、小桜さんがベッドに腰を落としてから身を寄せて、俺の胸元付近で両手を動かし、服の上からバストを測り始める。


近い、くっつきそう。


もし俺がこの状況に興奮して「はぁはぁ」言い出したら、確実に聞こえちゃう訳で、バスト測定に夢中な小桜さんに気付かれぬ様に理性を総動員、気を落ち着かせる為、脳内で羊を数えよう。羊が1匹、2匹、とピョンピョン柵を飛び越える光景を想像していたら


さわさわ


メジャーの捻じれを直す為に胸元を撫でられてしまい、


羊が、ががががががが


羊の大群が出現。ピョンピョン飛んでいた柵がバギバキに踏み潰しながら脳内を埋め尽くし、もう数えるのが不可能になってしまった。


そうしてバストが測り終わって、大きな溜息が漏れる。これが後、2回もあるのか。だけどちょっとは慣れたし、このままウエストとヒップを……



やばい。

やばいやばいやばい!!



ウエストはともかく、ヒップはヤバい!

小桜さんのご乱心で気が動転したせいで、自分の状況を忘れてた!


そう思っている間にウエスト測定が終了。2度目という事もあって手際がよくなっている。そして小桜さんの手がお腹から更に下がっていく所で、慌ててその手を掴む。


「すみません! ヒップは自分で測ります!」


女の子に腰を触られて恥ずかしいとか、股間がアレとかそんなテンプレ理由じゃない! 知られたら男の、人としての尊厳を失ってしまう!!


フルフル(首を横にふる)


だけど小桜さんは遠慮しないでと言わんばかりの反応で、てゆーかまだテンパってる様で、今はスリーサイズを測るという使命しか見えてない感じだ。


「とにかく、お願いだからヒップだけは……


そんな前のめりに迫ってくる小桜さんを制止させようとした所で、病室の扉が開き、



「羽生く~ん。オムツ交換の時間よ~」



看護師さんからの死の宣告に、俺はてんじょうを仰いだ。


そしてこのパワーワードは暴走中の小桜さんをも制止させ、俺と看護師さんを見比べている。そんな状況下で、当の看護師さんだけが笑顔だ。


「あらあら羽生く~ん。もしかして私のオムツ交換がイヤだから、彼女にやってもらう事にしたの?」


「そんなマニアックプレイしてません! それに彼女じゃないですから!!」


なぜさっき食欲がないと言ったのか、その理由がこれだ。病院食は質素で物足りないし、俺は病気じゃないから食事制限もないけど、今はベッドから動けず、当然ながらトイレにも行けないのだ。しかも足が不自由なうえに腰も怪我だからおまるすら選べず、赤ちゃん以来のオムツを着用するハメになってしまったのである。


勿論これは仕方のない事で、数週間の辛抱だけど、トイレ以外で致すという行為にどうしても慣れず、更に出したモノは当然ながら流されずにオムツに残りっぱなしで、もうダイエットと割り切り、小食を貫いているのである。


「羽生く~ん。無理し過ぎたら便秘になっちゃうよ~。それに今なら、彼女と話しながらこっそりウ●コって芸当もできるわよ~」


この言葉に、小桜さんがバッと俺から離れる。

ヤバイ、涙が出そう。


「そんな曲芸するくらいなら、舌を噛み切って自害します!! 変態ですらドン引きな行為ですよ!!」


「え~、でもこの子、昨日も来てたじゃない。本当に彼女じゃないの?」


そうして看護師さんが小桜さんを見ると、もう羞恥心やら何やらが暴走状態で、それから俺と目線が合った後、


ペコペコ(頭を下げまくる)


と、昨日と同時に逃げられちゃいました。


今度こそ、小桜さんが来る事はないだろう。

てゆーか、次に会ったら、どんな顔すればいいの?


あとこの腰が完治したら、すぐ横で爆笑してる看護師をブン殴ろう。そう心に誓ってから、オムツ交換をしました。

汚れっちまった悲しみに:中原中也の詩、日本屈指のポエマー

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