64話 ブルジョアアレルギー
「家が広くて友達が呼べない?」
帰ったら小桜さん(姉)に謝るって約束してから嘘の理由を尋ねると、そんな答えが返ってきた。なお当の美羽ちゃんは至って真面目な様子である。
「お金持ちって知られたら、イジメられてしまいます」
「いや、変に威張らず、嫌味な態度じゃなければ大丈夫だと思うよ?」
美羽ちゃんの性格なら問題ない筈で、むしろ友達から距離を取る方が駄目だ。イジメられるのは大抵が「弱者」であり、成績不振・運動苦手・どんくさい、そういう子が狙われやすく、友達を避けて孤立するのも当然NGだ。
けど、こういう問題は本人が納得しなきゃどんなに説明しても無駄で、手間だけど原因究明から始めた方がいいだろう。
「質問だけど、美羽ちゃんにとって、お金持ちってどんなイメージ?」
この問に対しての答えが
「我が儘で、貧乏が嫌いなのに無駄遣いが多くて、毎日高カロリーな食事で、あと会話が楽しくないというか、気付いたら見下される?」
「うん、かなーり拗れてるね」
しかも強ち間違ってないからタチが悪い。過去に嫌な事でもあったのか? どうやら美羽ちゃんのお金持ちイメージは最悪で、だけど親の再婚で自分がお金持ちの子になっちゃったから、戸惑っているらしい。
「もしかして美羽ちゃん、今の家が嫌い?」
「そんな事ないです! 新しいお父さんもお姉ちゃんも大好きです!!」
真っ直ぐに断言してきたから、今の家族に不満はない様だ。
「でも、新しいお父さんは美羽に高い服を買おうとしたり、高い外食しようとしたり、隙あらば贅沢させようとするので落ち着かないです。初めての家族旅行でハワイに連れていかれた時も、初の飛行機と時差ボケで気持ち悪くなって、現地でずっとベッドで寝てましたから」
おおう、美羽ちゃんのお父さん、空回りしてるなぁ。本人は娘と仲良くしたいだけなのに。
「だからお兄ちゃんの家にいると、とっても普通で落ち着くのです。ココは美羽にとって安息の地です」
うわー、完全に水と油というか、これじゃ友達呼べないのも当然だ。それに美羽ちゃん自身、再婚・転校と環境が大きく変わったりで、余裕がなかったのかもしれない。
「とりあえず美羽ちゃんは、どうしたい?」
「……………分からないです。月山さんとはもっと仲良くなりたいけど、それ以上に、嫌われたくないです」
この答えに、何も返せなかった。
全国のお兄ちゃんはこういう時、どう答えるの? 兄妹歴が浅すぎて分からん! てゆーかもう俺の一存で決めちゃ駄目なレベルになってない?
「ごめん美羽ちゃん。正解が思い浮かばないけど、それでも嘘はやめた方がいいよ。ちゃんとした理由があったとしても」
「……………はい、そうですね」
「大丈夫! 何があっても俺は美羽ちゃんの味方で、何なら一緒に謝るか…
「何を謝っちゃうの?」
「うおっ! 母さん!?」
そこにはエコバックも持った我が母がいて、買い物から帰ってきた様だ。
「ゆぅちゃーん、見慣れない靴があったけど、もしかしてお客さん? だったら放置しちゃ駄目じゃない。ちゃーんとおもてなししなきゃねー」
「ちょっ、待て待て待て!!!」
「待っ、あう」
俺は足ギブス・美羽ちゃんは正座を続けていたせいで足が痺れて共に立てず、そのまま俺の部屋に母が入り、机の前にいた月山さんが
「小桜さんのお母さんですか?」
と、不思議そうに尋ねてしまい、それを聞いたノリの良い我が母は
「そうです! 私が2人の母です!!」
4章は羽生母の出番が多くなるので喋ります。ジーパンにパーカーって感じのポジティブで明るい人柄です。




