62話 小桜美夜の消失
どういう事だ、まだ寝ぼけているのか?
とりあえず月山さんを俺の部屋に案内して、美羽ちゃんにお茶菓子を出すように頼んだ後に考えてみたけど、脇のヒリヒリが治まってない以上、現実で間違いない。
だけど美羽ちゃんは冗談を言う性格じゃないし、何か意図があるのか? だったら合わせながら、会話で探っていこう。
「わー、すごい本の数」
「月山さん、本好きなの?」
「うふふ。大好きです」
独特な笑みを浮かべてから、感嘆という様子で本ばっかりな我が部屋を見まわした後、一角にあるラノベ棚で止まり、チェックを始めてから、
「小桜お兄さんは王道、ストーリー重視」
「へぇ、タイトルだけで分かるんだ」
「ラノベ詳しいので。最近、小説を読む小桜さんを発見。親睦を深めたかったので、ついストーカーを。えへへ」
「いや、ちゃんと本人に断ってから来ようね」
確かに最近、美羽ちゃんにはジブリ原作小説・読みやすいのを貸していて、それで読書仲間が増えるの結構だが、小説好きは癖のある人が多くて、月山さんもそれっぽいから、これは俺としても責任持って対応しないと。
じーーーーーー
「えっと、どうしたの?」
「『私のお兄ちゃんは格好良い』って言われたけど、……普通?」
「いや、……………はい。普通で…
「そんな事ないです。お兄ちゃんはとっても格好良いです!」
お茶菓子を持ってきた美羽ちゃんが力強く反論したけど、この話題は膨らまさないでほしい。愛しくて切ない気分になって心が滅多打ちだよ。後で『吊り橋効果』の意味を教えてあげないと。
「もー、家に来るのは駄目って、学校で何度も言ったじゃないですか」
「ごめんなさい。小説仲間が欲しかったので。えへへ」
まぁ、小学生は小説よりも漫画で、ラノベも中学生辺りからが一般的だろう。それに小説好きは静かな奴が多いけど、仲間が見つかったら本好きネットワークを広げるべく、友達になりたいって衝動が出ちゃう生物からなぁ。
「まぁまぁ、折角来てくれたんだし、話くらいは聞いてみようよ」
「うー、お兄ちゃんがそう言うなら」
そう宥めた後、月山さんがキョロキョロと部屋を見まわしてから、改まった感じで尋ねてきた。
「この家は1LDK?」
「うん、狭くてごめんね」
このアパートは3人で住むにはギリギリな広さで、唯一の部屋が俺のもので、両親は寝る前にリビングの机をどけて寝ているのだ。
「小桜さんの部屋も……、ココ?」
あ、そういえば今は妹がいるんだった。そうなると……
「そうです! お兄ちゃんと一緒の部屋です!」
まぁ、そうなるな。それに小学生くらいなら部屋が一緒って家庭もあるよね? だけど今度は、さっきまで寝ていた布団に月山さんが注目して
「布団も1つ?」
「ええっと……、はい! お兄ちゃんと一緒に寝てます!」
いや、それは無理あるよね! 部屋が一緒だとしても、布団は普通2つだよね? 確かにうちは倹約家だけど、そこまで余裕ない訳じゃないからね。早くも兄妹の綻びが出始め、だけど事情が分からないからどうフォローすればいいか分からずにいたら、
「そういえば小桜さん、姉がいるって言っていた様な」
凄いツッコミきちゃった!!!
この疑問に美羽ちゃんがどう答えるのかと思ったら、
「お、お姉ちゃんは……………、消えた?」
小桜さん消失しちゃったの!!??
いや、これも咄嗟の嘘だろうけど、本人聞いたら泣くぞ!! なんかもうグダグダで、もうゲロった方がいいのでは?と思った所で、
ピンポーン
また来訪者が来たらしく、嫌な予感がしたので脇を気遣いながら松葉杖で玄関に向かったら、その予感は見事に的中。消失した筈の小桜さんがいらっしゃいました。




