49話 おっぱいのついたイケメン
「おぅ小桜、連れて来たぜー」
ワタワタ(焦る)
昼休みになった途端、女ヤンキーが襲来して拉致られちゃいました。何を言っているか分からないと思うが、俺も状況がさっぱり分からないです。
「小桜さん、この人は一体?」
「……………………………………………まどかちゃん」
「だからちゃんはヤメろって! おい後輩、俺様の名前は檜山まどかだ。敬意を込めて檜山先輩って呼べよ!」
「分かりました檜山先輩。すみませんが降ろしてくれませんか?」
「ああ、そうだな。わりーわりー」
そうして中庭のベンチに降ろされたけど、それまでは肩に担ぎ上げられての移動で、借りてきた猫の如く、大人しく縮こまってました。
女子なのに豪快な檜山先輩は、凛とした顔立ち、言動もワイルドで制服も着崩したりで、美人というよりイケメンと評する方が、いや、おっぱいのついたイケメンって感じだな。
「重かったですよね?」
「あの担ぎ方なら重くねーし、救助隊の運搬方法らしーぜ。確か名称は……」
「ファイヤーマンズキャリーだ。そこで自らが回転すればプロレス技のエアプレーン・スピンに変わる」
「あぁん? なんだこのイケメン眼鏡は?」
「始めまして、失礼ながら後を付けさせてもらいました。羽生の友人の織田です。置き去りだったお弁当と松葉杖を持ってきたので、一緒に食べましょう」
そんなイケメン営業スマイルに檜山先輩は眼を飛ばし、睨み合いが勃発。
「お呼びじゃねーんだよ。てめーはそこらへんの女子ナンパして食ってろ」
「じゃあ、檜山先輩を口説いていいですか?」
「ほっほーう、彼氏持ちの俺様に宣戦布告か。いい度胸だ!」
この騒動に小桜さんはワタワタしっぱなしで、俺は手はともかく足が出ないので収集が付かないまま、昼休みの半分以上が消費されてからの昼食となりました。
◇ ◇ ◇
「つまり、小桜さんの親友として挨拶がしたくて、親睦も深めたいから拉致られたと?」
「おうよ! 困ったら頼ってくれていいぞ!」
そんな意気揚々な宣言に、渇いた笑いしか出てこない。まぁそれはこの際いいとして、横にいる小桜さんは至って普通で、無理に連れて来られた感は全くない。だけど何てゆうか。
「意外な組み合わせですね。正反対な性格に見えますが」
「おぉ、復活したか織田。大丈夫か?」
口論の末、俺同様に担がれてエアプレーン・スピンでダウンしていた織田が何食わぬ顔で聞いてくる。
「小桜とは同中で、勉強で世話になったからな」
コクコク(首を縦に振る)
「小桜はいい奴だぞ! 馬鹿で部活に明け暮れてた俺様を、席が隣ってだけで勉強教えてくれて、腹減って死にそうな時は弁当分けてくれたりで最高だぞ!!」
義理堅い小桜さんらしいなぁ。それにこういう友達が傍にいれば結構フォローしてくれるし、案外いいコンビなのかもしれない。
「じゃあその明け暮れた部活では、ちゃんと活躍できたんですか?」
「いや、途中退部だ」
「駄目じゃん!!!」
先輩だけど、つい全力ツッコミを入れてしまい、更に織田が畳みかけてくる。
「檜山先輩、もっとお淑やかにしたらどうです? その方がモテますよ」
「大きなお世話だ! それに彼氏いるつってんだろーが!!」
「でも、その彼氏だってお淑やか彼女の方がいいですよね? それに可愛く振る舞えば、まどかちゃんって…
ガシッ!(胸ぐらを掴む)
「てめー、今度は担いだ後、プールにブン投げてやろうか?」
「いやー、それは流石に」
キーンコーンカーンコーン
そんな口論を檜山先輩と織田が続けて、俺と小桜さんが眺めて適当に相槌をしてたら予鈴が鳴り、あと5分で教室に戻らないと……。
「って、あと5分で戻るの!?」
1年クラスは3階、松葉杖で時間内は不可能だ。
「織田、悪いが背負ってくれ!」
「全く、しょうがな…ぐはっ!」
檜山先輩に殴られて織田が沈黙。また担がれちゃいました。
「俺様が連れて来たんだ。俺が送り届けるのが筋ってもんだろ」
「いや、これ以上女子に担がれての移動は恥ずかしいので勘弁して下さい。てゆーか、何でそんなに体力あるんですか?」
「俺様がガキの頃、弟のサッカーにずーっと付き合ってやったからな。行くぜ!」
「小桜さーん」
この嘆きに小桜さんは困った表情を返すだけで、小桜さんは義理堅いけど、押しに弱い。
羽生・小桜コンビは大人しいので、友人はこんな感じにしました。今後も時々登場予定です。




