44話 美夜と美羽
「ところで、君は美夜と付き合っているのか?」
ぶほっっ!!!
何の前フリもなく鮎を齧っていた時に聞かれて、思わず吹いちゃったよ。
「いや、反対する気はない。美夜は頭はいいが、働くには向かないし、尽くすのに喜びを感じる性格だ。だったら早めに家庭を持って、それを祖父として支えるのも…
「ちょっ、ゴホッ、待って……」
「それに子供は周りの言動を見て成長する。言葉遣い・マナー・そして人付き合いの方法を身近な大人から学習するものだ。そして君は娘達にイイ影響を与えている。それくらいは私にも分かる。だから君に全てを託しても…
「待って下さいっ!!!」
このままじゃお義父さんになっちゃう!! 詰まった喉から無理矢理に言葉を発して、
「俺と小桜さんは、まだそういう関係じゃ…
「じゃあ、美羽の方か!? いや、美羽も随分と君に懐いているし、止めはしないが、親密な関係はもう少し成長するまで待ってほしい。でないと体に負担が…
「ちっがーーーう!!!」
失礼だと思ったけど、小桜お父さんの口に鮎を突っ込んで台詞を封鎖させる。てゆーか、もう少し成長したらOKなの? そこは親として踏み止まろうよ!
「今はそういう関係になる気はないです! 明日からの中間テストとか、骨折完治とか、そっちを先に片付けたいので!!」
勢いで宣言したけど、これは紛れもない本心だ。俺が小桜さんと出会ったきっかけは事故で、それから毎日のお見舞いでずっと一緒で、最初は寡黙でミステリアスな印象だったけど、実は優しくて、義理堅い性格に惹かれてく自分は確かにいた。だからこそ、怪我の負い目がある今の状態で関係を動かす気にはなれない。下手をすれば、義理で彼女にまでなってくれそうで、流石にそれは嫌だ。
だから今は、ただ一緒に居たい。それだけだ。
それに小桜さんの性格上、下手に関係を動かしたら距離を置かれる可能性もあるので、どっちにしろ今は時期尚早だろう。
「そうか。早とちりをして済まなかった」
「いえ、親なら娘の心配をして当然ですからね。小桜…、美夜さんと美羽ちゃん、仲がイイですよね」
「ああ、美夜から聞いたと思うが、仲良し姉妹になってくれて嬉しいよ」
「ですね。偶然にも名前が似てたのが幸いしたからじゃないですか?」
美夜と美羽、名前だけを見れば完全に姉妹にしか見えない。そんな反応に、お父さんが遠い目をしながら小声で答えてきた。
「それはね、偶然じゃないんだよ」
「今の妻とは高校の頃、色恋沙汰なんてなかったけど、気兼ねなく話ができる存在で、色々な話をしたんだ。その中に『もし自分に子供ができたら、どんな名前を付けるか』って話題があって、女の子なら「美」って文字は外せないって意見で一致したんだ。その場限りの話題だったけど、お互い何となく覚えていたらしい。だから美夜と美羽に血の繋がりはないけど、2人は姉妹で間違いないのかもしれない」
「そうだったんですか。因みに、その逸話を2人は知ってるんですか?」
「いや、知らない」
「どうしてですか?」
この疑問に、お父さんは思いのほか悩ましてな表情になってから、恥ずかし気にこう答えてきた。
「だって、たとえ無意識の偶然だとしても、そんな過去があっての再婚なら、過去の結婚が丸ごと浮気みたいじゃないか。下手をすれば美羽に誤解される。だから話すにしても、もっと後にしないと」
そんな大人なのに子供っぽい言い分に、思わず吹いちゃいました。本当に親は苦労と気遣いが絶えない役職らしい。
「おとーさーん。おにーちゃーん」
それから皆が戻ってきたが、今回は美羽ちゃんの買い物がメインだったらしく、子供服や体脂肪も測れる体重計等が激安で購入できたらしい。そしてこの場を移動する事になり、松葉杖を持って立ち上がろうとしたら、
すっ
小桜さんが手を差し伸べてくれて、立つのを手伝ってくれた。
うん、今はこれでいい。それに1人で立つことさえ困難な状態で格好つけても、格好悪いだけだ。さっさと足、治さないとな。
「これかも仲良くお願いします。小桜さん」
コクコク(首を縦に振る)
これで2章終了です。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。




