43話 加害者
GW最終日、明日から中間テストなのに、家族ぐるみでお出かけになりました。
ここ数日、俺の両親が小桜家に招待され続け、聞けば小桜家は親同士の交流が乏しく、これも縁という事で話をするうちに意気投合。そして近所の公園で毎年恒例のフリーマーケットという話題から、じゃあ皆で行こうって事になったのだ。
「うわー、すごいです!」
ただの地域イベントだけど、そこそこ広い公園に結構な数が出店、更には出店・大道芸人がいたりという賑わいっぷりに、初めて来た美羽ちゃんはテンション上がりまくりである。
それから美羽ちゃんは小桜さんを連れて出店巡り、両親達も掘り出し物がないか見て回る事になったが、こういうイベントを松葉杖で動き回るはアレなので、俺はベンチでのんびり待つ事になったんだけど。
なんだろう、外堀がどんどん埋まっていく気がする。
移動も羽生家が車で先に到着、数分後に徒歩で到着した小桜家と合流してから一緒に公園に入るという、完璧な家族ぐるみの付き合いになっちゃっいました。別に嫌じゃないし、皆楽しそうで何よりだけど、謎のプレッシャーが背中にずっしり圧し掛かってる気がする。そんな謎展開に、真っ白な空を見上げて憂いていたら、
「一緒に食べないかい?」
小桜さんのお父さんが到来。線の細い柔和な表情で、頼りなさそうな感じもあるけど、優しそうな人柄で、何よりも美父だ。今も充分格好いいけど、10代はもっとイケメンでモテモテだったに違いない。
そんなお父さんが右にビールとジュース・左にイカ・鮎の塩焼きがたんまり入った袋を持ち、了承して隣ベンチに座ると、とりあえず乾杯しました。
「随分買いましたね」
「鮎が好きなんだ。この食感と旨味はいくら食べても飽きない。いい鮎は肝も美味いんだけど、これは当たりだね。どんどん食べていいよ」
そんな熱弁に押され、親違いの親子2人で食べていたら、小桜お父さんがしみじみと語ってきた。
「こんな地域イベントがあるなんて知らなかったよ。この近くに家を建てて10年近く経つのになぁ」
「他にも夏祭りに子供神輿、あと図書館が大きいから演奏会や演劇もやってますよ。気が向いたら美羽ちゃんを連れていってあげて下さい」
我が家は超庶民なので遠出はせず、地域イベントで安上りに楽しんできたので、親子共々無駄に詳しくなってしまい、しかも去年は家の在庫処分目的でこのフリーマーケットに出店、クラス友達に不要なものを当日持って来たら売り捌くって伝えたら、無駄に物が集まって大盛況というアグレッシブぶりである。そんな思い出を語って一緒に笑った後、小桜お父さんが尋ねてきた。
「美羽の事だけど、足の怪我が治ったら、一緒に運動をするそうだね」
「はい、その方がいいと思ったんですけど、出しゃばり過ぎましたかね?」
「いや、問題ないよ。事情は把握しているつもりだけど、親として一応確認をね」
しまった。こういう事はちゃんと親に報告すべきだった。たとえ正しい行動でも、それを知らなければ理解されず、不安にさせるだけなのに。だが小桜お父さんは俺を責める感じじゃなく、むしろ自分を責めている感じだ。
「本来なら親である私の役目だけど、急に新しい娘ができて、お互い手探りで気を遣ってばかりだったから、中々踏み込めなくてね。情けない限りだよ」
「そんな、美羽ちゃんの為に愛車を売っぱらったじゃないですか」
「まぁ、即席だけど親だからね。おかげで今は電車通勤だけど、後悔はしてないよ。美羽を不安にさせる要素は取り払いたかったからね。美羽を跳ねた加害者家族から謝罪したいって連絡も、丁重に断らせてもらったよ」
「そうだったんですか。因みに俺は会いましたよ。転院前に」
「へぇ、どうだったんだい?」
「俺と美羽ちゃんを跳ねたのは高齢ドライバーで、その息子さんが謝りに来たんですけど、スーツの似合う40過ぎの大人なのに、恥じらいもなく顔をクシャクシャにして謝ってくれました。『君のおかげで父が人殺しにならずに済んだ。本当にありがとう』って」
俺は美羽ちゃんを救ったけど、同時に加害者家族も救っていたらしい。医療費だけでなく慰謝料まで払ってくれて「本当にいいんですか?」と尋ねたら、「もし死人が出ていたら、その金額じゃすまない重荷を私達家族は背負っていた。お金で全て解決という訳じゃないが、償いの意味も含めて受け取ってほしい」とまで言われてしまい、もう素直に頷くしかなかったのだ。
「そうか、そうだったのか」
それからの小桜さんのお父さんは、物思いにふけりだし「大丈夫」「親として美羽ちゃんを優先するのは当然」とか、そんな言葉を伝えようとしたけど、父親という立場を知らない自分が言っても薄っぺらいだけで何も言えず、ほんの少しの間、黙って鮎を食べ続けました。
肝が苦いけど、美味しいな。
和気あいあいな話題も入れる予定でしたが、笑いとシリアスの混同はNGと判断して、シリアス系は全部ここに集約しました。次は小桜さんとの関係について親から質問されます。




