42話 劇的ビフォーアフター
美容室に強制連行されちゃいました。
GWも終了間近となり、小桜家で追い込み勉強をしていたら、美羽ちゃんから「お兄ちゃん、そろそろ髪を切った方がいいですよ」とツッコミが入り、「入院中に森谷さん(看護師)が切ってくれたけど、最後に理髪店に行ったのは、高校入試前?」と呟いた途端、話を聞きつけた小桜さんのご両親がタクシー召喚、小桜さんと共に美容室という流れである。
しかも今までは1000円カットで済ませてたのに、まさかの美容室デビューである。しかも松葉杖で周りから大注目、スタッフからも丁寧な接客をされちゃいました。
「本当にいいんですか? お代を持ってもらって」
コクコク(首を縦に振る)
まぁ、小桜さんも外出時にご両親からお金を預かっていたし、ココはご好意に預かろう。それから程なくして俺の名前が呼ばれて「初来店なのでお任せで、インドア軟弱男に似合いそうな感じで」という、松葉杖持ちにピッタリなオーダーにスタッフさんが失笑した後、いい感じなショートヘアに仕上げてくれました。
そうして待合席に戻ってきたら、小桜さんの姿がなかった。トイレかな?とキョロキョロしていたら、女性スタッフがこちらに来てくれて、
「彼女さんならカット中です。怪我なのに同行してくれて、とってもお似合いですよ」
「えっと、どうもです」
なので大人しく待ち続けた後、ようやく小桜さんが戻ってきたのだが、今までの小桜さんは地味なもっさりボブヘアだったのに、片側の耳にかかる自然なアシンメトリーで女らしさが強調、前髪も以前より短くなり、そよ風を感じさせるクールボブに変貌。しかも今は大きめで地味な眼鏡も外してるから、整った素顔と合間って、結構な美人になっている。
そんな最高の仕立て上がりなのに、当の本人は照れ臭そうというか、挙動不審になっている。そんな時、カットした美容師さんが申し訳なさそうに答えてくれた。
「すみません。あなたのご両親から『今回は地味目じゃなく、特別可愛く』ってオーダーが入ったので」
その回答に、小桜さんが肩を落とし、美容師さんが困った様子で俺の方を見てくる。どうやら、彼氏(仮)として励ませってサインらしい。
「小桜さん。すっごく似合ってますよ。てゆーか、今まで意図的に地味にしてたんですか?」
コクコク(首を縦に振る)
美人なのに勿体ない。……いや、だからこそか? 小桜さん目立つの苦手そうだし、あえて地味にしていたのか。美男美女は役得が多いけど、その分だけ注目度や気苦労も増えるからなぁ。
「って、じゃあもしかして、普段かけてるメガネも?」
この指摘に小桜さんが眼鏡を差し出し、確認してみたら、度が入ってない伊達でした。そして返した後に小桜さんが眼鏡を装着したが、キッチリと髪が綺麗に整ってる分だけに、残念メガネの存在感がもの凄い事になっている。雑コラかな?
「小桜さん、今後メガネを買いに行きましょうね。そのヘアースタイルに合うお洒落なのを」
フルフル(首を横に振る)
「そこを何とか」
素顔が一番だけど、流石にメガネ没収はしのびない。だからせめてこの髪型に似合うメガネを装着してほしい。そう思っていたら、小桜さんがカバンからメガネケースを取り出し、今の髪型にピッタリなメガネが装着された。
「あるんかい!?」
それは赤っぽいアンダーリムのメガネで、とても似合っている。
「じゃあ折角だし、そのメガネで帰りませんか? 学校は地味メガネでいいので」
コクコク(首を縦に振る)
渋々ながらも納得してくれました。多分この眼鏡、家族が強引に買って持たせたんだろうなぁ。だけどこれが多分これが小桜さんの限界っぽいし、今後は学校以外でいいから、こっちのメガネを掛ける機会を増やしていこう。そう思いながら小桜家に戻ったのだが、小桜さんの代わりっぷりに家族一同が感激。そして俺に「ありがとう」と言ってきたので、どうやら俺の美容院はついでで、こっちが本命だったらしい。そしてとっても嬉しそうな美羽ちゃんが、
「とっても似合ってるよお姉ちゃん。やっと私が選んだメガネをかけてくれて嬉しいです」
コクコク(首を縦に振る)
「じゃあ明日からも、そのメガネでいてくれるよね?」
あっ、小桜さんが固まっちゃった。明日、つまりこれからの学校はこの容姿で過ごすという事で、きっと注目されまくりだろう。
「かけて、くれないの?」
ああっ、小桜さんがめっちゃ葛藤してる。普通ならNOだけど、やっぱり美羽ちゃんの頼みは断り難いらしい。そして美羽ちゃんが涙目になった所で、
コクコク(首を縦に振る)
「ほんとに! わーい! じゃあこっちのメガネは美羽が預かるね」
さっきまでの涙目が一転、すぐ笑顔になった美羽ちゃんが即座に小桜さんの鞄からダサイ大きめ伊達メガネが没収されちゃいました。美羽サン、恐ろしい子っ。そうしてハメられた小桜さんは、これからを案じてなのか、どよーんな感じで打ちひしがれちゃいました。
その、ごめんね小桜さん。
死に設定だった長い前髪・メガネという特徴を、今後は活かしていく予定です




