40話 体を鍛えて、心を強く
「…………………………ごめん、なさい」
「いえ、小桜さんが謝る必要なんてないです」
まさか、ここまで込み入った事情だったとは。因みに美羽ちゃんは随分と回復して、今は遠目なら病院・赤い車を見ても大丈夫らしい。だけど俺が一番驚いたのは美羽ちゃんの過去や事故の経緯じゃない。
「小桜さんと美羽ちゃんは、姉妹になって、まだ1年だったんですね」
コクコク(首を縦に振る)
「だけど、随分と仲良しに見えましたよ」
コクコク(首を縦に振る)
「美羽ちゃん、大切なんですね」
コクコク(首を縦に振る)
きっとお姉ちゃんになる為に、頑張ったんだろうなぁ。そしてそれは美羽ちゃんも同じで、2人に血の繋がりはないけど、だからこそ絆が深いのかもしれない。
「小桜さんは、いいお姉ちゃんですね」
そう言ったら、小桜さんが嬉しそうに照れてくれました。全然喋ってくれないけど、俺の為に毎日お見舞いに来てくれた様に、美羽ちゃんにも色々してきたのだろう。ほんと、小桜さんは義理堅いなぁ。
だったら、俺も美羽ちゃんに何かしてあげたい。そんな事を考えていたら、美羽ちゃんが戻ってきた。
「もうすぐ昼食の餃子ができますよ。お兄ちゃんのお母さんは凄いですね。とっても料理が上手で驚きました。これからも料理を教わりたいです」
「それなら全然構わないし、いつでも来ていいよ。それより美羽ちゃん、俺の怪我が治ったら、一緒に運動しない?」
「別にいいですけど、どうしてですか?」
「お兄ちゃん、ずっと入院で体が訛なまっちゃったから、運動して体を鍛えようと思うんだ。だけど1人じゃ寂しいし、美羽ちゃんと一緒なら張り合いあるかなって。公園でランニングしたり、近くの温水プールに行ったりとか」
「えっ? 近くにそんなプールがあったんですか?」
「うん。市営で1年中やってる温水プールで、気軽に行ける場所だよ。それに体を鍛えて、ついでに心も強くしたいから」
「心を、鍛える?」
「うん、心を支えているのが体を鍛えれば、強くなれる。お兄ちゃんが保障する」
「そうなんだ。…………………………じゃあ美羽、お兄ちゃんと一緒に運動します!!!」
俗説だけど、体を鍛えれば心も変わる。運動という努力を重ねて、体を強くしていく事で、不安と向き合える様になって、自信も持てる様になって、きっと美羽ちゃんにいい影響を与えてくれる筈だ。
今の美羽ちゃんに薄っぺらい言葉で励ましても、気休めにしかならない。それよりも傍で支えて、一緒に強くなる方がいいと思ったのだ。それに美羽ちゃんは辛くても明るく振る舞い、嘔吐してもなお俺にお見舞いに行こうとした、強い女の子だから、きっとトラウマからも逃げず、真正面から克服しようとする筈だから。
「じゃあお兄ちゃん、早く怪我を治して下さいね。美羽、待ってますから」
きっとこの選択肢が間違ってない。ないんだけど、1つだけ懸案がある。なに、本当に些細な事だ。俺が本ばっかり読んでる超インドア体質で、今までの体育授業はほぼ最下位、更に入院で体力ガタ落ちという、本当に些細な問題だ。それでも流石に、小学生よりは動けるよね?
そんな不安を秘めながら、2日連続の餃子パーティが始まりまりました。




