39話 トラウマ
小桜家は裕福なのに、姉妹部屋は殺風景、チラシで折り紙、お金持ちオーラがない美羽ちゃん、確かに違和感はあったけど、そんな物は個性の範疇だ。よその家庭事情なんてどうだっていいし、何よりも小桜さんと美羽ちゃんは実の姉妹に負けない、それ以上の信頼関係がある筈だ。
嘔吐した妹に躊躇なく抱き着いた小桜さんと、そのままずっと泣き続けた美羽ちゃん。あの光景は血縁以上の繋がりを感じさせるものだったから。
「……………………………1年前、再婚」
「……………………………美羽のお父さん、交通事故で」
それからも拙い小桜さんの言葉を聞き続けると、美羽ちゃんが小1の時、少し前を歩いてたお父さんが目の前で潰されてしまい、その時の車も、赤かったそうだ。
それから母親と2人の生活が始まったが、お母さんが働きに出てしまい、1人の時間が長くなっても、それでも美羽ちゃんは明るく振る舞い続けて、そんな生活が2年過ぎた頃、母親が同窓会に参加、昔馴染みだった小桜さんのお父さんと再会して、小桜家も離婚していた事もあり、再婚したそうだ。そうして美羽ちゃんは母親と一緒の時間が戻ってきて、幸せが戻ってきたのだ。
なのに、なのにまた、赤い車が来てしまったのだ。
血相を変えた母親が病院に駆け付け、怪我のない娘に最初は安堵したが、美羽ちゃんは酷く怯えながら「早く病院から出たい」と主張、母親は娘を庇ってくれた人が気になったが、今は娘を最優先にして帰ろうと判断、病院には車で来たので、美羽ちゃんと一緒に駐車場に向かったが、その車も、赤かったのだ。
そこで美羽ちゃんは盛大に嘔吐、今まで赤い車は平気だったけど、今回と過去が強烈に紐付き、トラウマになってしまったのを事故現場を知らない母親が気付ける筈もなく、娘を車に乗せようとしたら激しく抵抗、「電車で帰る!! 歩いて帰る!!!」と大混乱だったそうだ。
その後、母親と美羽ちゃんは電車で帰宅。会社を早退した父親に事情説明をしながら一緒に車回収に向かい、小桜さんは家で美羽ちゃんの看病をしていた時、ぽつぽつと聞こえてきた寝言から大凡の事情を把握、帰ってきた両親に伝えたそうだ。
その後の家族会議で、父親は保有する車2台の売却を決断。不幸な事に父親は赤い車が好きで、若かりし頃に貯蓄して購入した赤いスポーツーカー、近場用で主に母親が使う軽自動車も赤かったのだ。そして美羽ちゃんが安定するまでは学校を休ませ、お見舞いは両親2人で後日という事にしたが、後から美羽ちゃんが「ちゃんとお礼を言いたい」と主張したのだ。
それから俺は地元病院に転院、その初日に回復した美羽ちゃんとご両親が歩いて病院に向かったのだが、病院を前にした時、また吐いてしまったのだ。
なのでお見舞いを断念。改めて明日、両親2人でお見舞いに行こうとしたけど、美羽ちゃんは譲らず、理由を聞いてみたら、赤い車から守ってくれた人がちゃんと生きているか確認したい、それが分からないと安心できない、両親がお見舞いをしたら、もう会うチャンスがなくなると思ったかららしい。
実際、最初のお見舞いは大丈夫でも、娘のせいで大怪我をした以上、再度のお見舞いは拒否される可能性はある。なので両親が頭を悩ませていた時、小桜さんが手を上げたそうだ。
偶然にも同じ学校で先輩という立場、お姉ちゃん1人ならお見舞いじゃない、退院したらその人を家に連れてくるから、その時にお見舞いをすればいい。そう伝えて、美羽ちゃんは納得してくれたそうだ。
そしてその翌日に、俺と小桜さんが出会ったのだ。
予想以上に重い設定・展開になってしまいましたが、シリアスを長引かせる気はないので、全力で軌道修正に励みます。この小説はほのぼのストーリー?がメインなので。




