18話 夜勤病棟
就寝時間から小桜さんのホラー小説を読み始め、今がクライマックスの場面だ。過去に亡くなったクラスメイト、次々と事故で死んでいく仲間、死者が見つかるまで続く厄災、そして遂にその正体をヒロインと一緒に扉の先に追い詰めた所で……
カチャ
「うわあーーーーーー!!」
「ちょっ、しーーーーーー」
真夜中の病室の扉が開き、人影が現れるのと同時に悲鳴を上げたら、その人影に注意されちゃいました。
「な、なんだ。森谷さんか」
「何だとは失礼ね~。もう真夜中なんだから、子供は寝なさ~い」
笑顔だけどご立腹な様子に頭を下げつつ、時計を確認してみると、
「うわっ、深夜3時じゃん。消灯前から読み始めたのに」
「えっ? じゃあまさか、6時間ぶっ通しで読んでたの?」
「あはははは、そうなりますね」
小声でそう答えたら、呆れられちゃいました。病院の消灯時間はどこも21時で、部屋の照明が消されるけど、だから必ず寝ろという訳ではない。枕元の小さな照明なら許されていて、静かにしていれば読書なりゲームなりご自由にって感じだ。
「全く、今時珍しい文学少年ね~。私は学生時代、小説なんて全然読まなかったわよ~」
「それは勿体無い。よければお薦め本を貸しますよ」
「結構です。だけど漫画ならありがたく借りるよ~。日中は忙しいけど、夜勤は時間あるからね~」
話によると、森谷さんは急遽夜勤シフトにされたそうだ。20代後半ながら、この小さな病院では最年少で、突発的な夜勤は若手に回される運命らしい。
「羽生君は若くていいねぇ、お姉さんはもう徹夜が辛いお年頃になっちゃったよ。夜勤明けの日差しはもう殺人レベルで、帰りが大変だよ~」
「あはははは、殺人は大げさですよ」
そんな冗談に小声で笑ったけど、当の本人は目が陰ってから、
「帰りが車だから、夜勤明けのボーっとした頭で運転がねー。私はまだ事故ってないけど、院長は若い頃、夜勤明けの寝ぼけ運転で電柱アタック、愛車大破で悪夢の眠気クラッシュしたらしいの」
「全然大げさじゃなかった!! 森谷さんも気を付けて下さいね!!」
「うふふ、ありがとね~、じゃあ私は見回り続けるから、羽生君も程々にね~」
そう言って去っていったけど、看護師は想像以上に過酷なお仕事らしい。そんな森谷さんに敬意を払いつつ、クライマックスの小説を我慢して寝る事にしました。
冒頭は最近読んだミステリー小説を参考にしました
なお、個室なら21時以降も照明OKらしいです




