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小桜さんは義理堅い  作者: 奈瀬 朋樹
第1章:入院生活編
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15話 病院食が不味くて脱獄

病院食は不味い。


これは世間の常識であり、できるなら一生食べたくない代物である。だがら入院患者は病気と戦うだけでなく、人間の三大欲求である食欲が満たされないという苦行にも耐えなければならない。そう思っていたんだけど、


「羽生くん、夕食だよ」


「どうもです。すみません小桜さん、即効で食べますので」


看護師さんが持ってきた夕食ラインナップは、肉じゃが、お粥、卵スープ、ほうれん草のお浸し、ゼリーという献立だ。因みに配給時間は、どの病院も8時・12時・18時らしい。


だけどお見舞い・勉強に来ている小桜さんの病院食は当然なく、自宅に帰ってから夕食を食べる小桜さんには悪いけど、こちらの都合で夕食を遅らせる訳にもいかないから早食いをしているのだが、その様子を小桜さんがじーーっと見つめていて、


「うっ、すみません。小桜さんもゼリー食べます?」


ブンブンブンブン(首を横に振る)


この言葉に全力否定されてしまい、疑問符を浮かべていたら、自分がお見舞いとして持ってきたビーフジャーキーを食べ始めてしまった。


どうやら、この病院食が食べたくて見ていた訳じゃないらしいけど、それなら一体何だろうと思案していたら、食事を持ってきた看護師の森谷さん(06話のオムツ交換で爆笑した人)が前に出てきて、


「もしかして、病院食がどんな味か気になった? お見舞いに来る人は、み~んな物珍しそうに見たり、中には試食・インスタにあげたりするからね~」


この言葉に、小桜さんが恐る恐るという感じで頷いて、納得できました。それに病院食については俺も思っていた事で、入院初日は色々覚悟したけど、ふつーに美味しい食事でした。そしてこの疑問に、ニヤニヤしながらこちらを見ていた森谷さんが答えてくれた。


「昔はともかく、今はよっぽど駄目な病院じゃない限り、食事はちゃんとしてるよ。でないと患者が脱走しちゃうからね~」


「ええっ? 脱走!?」


「そうよ~。美味しいご飯を求めて抜け出すの。しかも外出申請せずの無許可でね。中には絶対安静なのに抜け出して、警察出動ってケースまであったから。そして当の脱獄犯は居酒屋で飲んだくれってオチよ」


恐るべし、人間の食欲。そしてそんな事態が頻発すれば病院は困る訳で、だったら美味しくするに越した事はないだろう。


「でも病院食って、何でここまでイメージ悪いのかな? 森谷さん分かります?」


「う~ん、昔の悪いイメージを引きずってるのもあるけど、制限多いのが理由かもね。食事代は病院共通で1食260円だから下手に高級にできないし、固いもの禁止で薄味、あとご飯じゃなくてお粥っていうのが、地味に評判悪いかな」


「あー、そういえば、頑なにお粥ですね」


おそらく、衛生面的な理由でそうなのだろう。俺は気にならないけど、毎日お粥だと味気ないって感じる人もいるだろう。


「だけど羽生くんは病気じゃなくて怪我だから、間食自由よ~。だけど食糧調達は彼女にお願いしてね。脱獄したら強制退院だから~」


この茶化しに、小桜さんが縮こまる。


「彼女云々はもういいですが、強制退院ってマジですか?」


「そうよ~、重い病気の人以外は追い出してブラックリスト入り、今後の受け入れ拒否になるから、羽生くんも気を付けてね~」


森谷さんは冗談っぽく言ってきたけど、全部冗談じゃないから笑い難い。因みに、小桜さんは俺達の会話をずっと聞き手に徹してました。ほんと、話すのが苦手なんだなぁ。

森谷さん:20後半の女性看護師、からかい上手な人柄です

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