12話 マリーなんとかさん
「あれ? 小桜さんが私服だ」
無地のワンピースに薄いカーディガンと黒っぽいストッキングという控えめな格好だけど、それが大人しい小桜さんのイメージにピッタリで、髪も花装飾のヘアピンで整えられていたりで、とても似合っている。まぁ、大きな眼鏡・長い前髪というもっさり感はそのままだけど。
「もしかして、家に帰ってから来たんですか?」
コクコク(首を縦にふる)
「そんな、わざわざ遠回りしなくても」
フルフル(首を横にふる)
「いやでも」
フルフル(首を横にふる)
ううーん、小桜さんって意外と頑固だな。だけどお見舞いで服装は重要じゃない筈だし、そうなると……
「小桜さん家と病院は、結構近い?」
コクコク(首を縦にふる)
成程、そもそも小桜さん妹と俺は近所のスーパー前で事故ったから、家が近くて当然か。それに今日からの勉強会で帰りが遅くなるし、一度帰宅してからお見舞いの方が都合も良いのかもしれない。
あとやっぱり女の子は、ちょっと手を加えるだけで化けるなぁ。てゆーか、制服姿ではあえて地味にしているのでは?と思ってしまったくらいだ。
そんな予想をしつつ、黙々と勉強準備をする小桜さんに今日の自習成果であるノートを渡したんだけど、予定の8割が限界でした。
「すみません。頑張ったんですけど、1人で黙々と勉強は辛いというか、集中できないです」
学校の授業は周りが勉強、その雰囲気に流されて自分もって感じになれるけど、たった1人だと、自分のやる気が全てだ。ちょっと休憩、更には漫画・ゲームに脱線しても咎める人がいないと、俺は怠けてしまう人間で、この環境で集中し続けるのは、ハッキリ言って厳しい。
「これは中間テスト、やっぱり赤点を覚悟しないとなぁ」
まぁ事情もあるし、補習を真面目にやればどうにかなるだろう。
フルフル(首を横にふる)
そんな諦めムードに、やっぱり小桜さんがNOを示してくる。
「いや、勿論やれる範囲で勉強しますよ。だけどこの環境は辛いです。高校受験も家だと全然勉強できなくて、図書館の自習室に篭ったり、友達と一緒に勉強したりで凌いだ口なので」
家で勉強できなければ、家以外ですればいいじゃない
マリー・アントワネットも言ってたじゃないか。やり方は人それぞれだと。なお、パンがなければ~発言で農民ブチ切れ、革命でフルボッコされた件は、同情できないです。
そんな感想に小桜さんが考え込んでしまい、そこから微動だにせずずーーーっと固まり続けていたら、久々に小桜さんの口が開き、ボソッと呟いてきた。
「……………………………………ご褒美」
「えっ? つまり、俺のヤル気を引き出す為に、何かしてくれる?」
コクコク(首を縦にふる)
そう頷いた後、狙ったよね?って言いなくなる様な上目遣いで、こう付け足されてしまった。
「……………………………………何でもするよ?」
パンがなければケーキを食べればいいじゃない:フランスで最も有名なドS王女の格言だが、実際に言ったかは不明。なお本作での引用?はネタですので




