第9話・曽祖父のたまごかけごはん ③
ユーゴさんに深く礼を言って、私は61階層にもどり、両親に事情を説明した。
両親は納得したみたいだったが、私は納得はできなかった。
しかし、これ以上はどうしようもないと両親から私は言われた。
確かに、たまごもごはんもこのバベルにはない。富裕層でさえ、雑穀バーの含まれる雑穀の種類が少なくなる程度だ。
でも、だからと言って、私は納得したくはなかった。ここで理由がわかったからはい終了って言う風にはしたくはなかった。
もう夫婦2人でっていうのは無理かもしれないけど、せめてTKGを食べるというひいじいちゃんの夢を叶えたい。
----------------------
私は必死に探した。
25〜29階層の『食糧庫』にもしかして「コメ」や「卵」がないか。
1階層の『処理場』になにか痕跡があったりはしないか。
65階層の『植物園』に似たような植物はないか。
46階層の『図書館』に何か情報はないのか。
犯罪の危険を顧みずに、2階層の『スラム街』にだっていったし、『軍隊』に止められはしたが、富裕層にだって、行こうとした。
学校が休みのたびに、私は1日中バベルの中を上へ下へと走り回った。どうして自分でもここまでやるのかわからない。もしかしたら、
【ひいじいちゃんにTKGを食べさせる】
というのが、自分の夢になってしまっていたのかもしれない。
そんな感じに、すでに5ヶ月が過ぎていた。ひいじいちゃんの余命の残りはあと1ヶ月。
焦りを感じ始めていた今日、各階層のことを記録しながらバベルの中を旅をする、「階層記録作家」と名乗る人物とあって、有力な情報を手に入れた。
分厚いコートを着込み、帽子を深くかぶるその男から聞いたところによると、17階層の南東にある、石の置物のそばには、古ぼけたお守りがついていて、それが妙に気になった男は、中身を見たらしい。するとその中には私が言う「コメ」らしきものがあったらしい。
墓漁りを咎めたいが、ここはすぐに確認しないといけない。
それを聞いて、私はすぐに17階層に向かった。
17階層は、バベル全体に働いている「空気循環システム」がうまく働いていないらしく、階層全体の空気はひどくよどんでいる。ハンカチで口元を押さえながら、私は南東に向かっていった。
----------------------
17階層南東。そこは、広大な墓地があった。
後から詳しく調べて見ると、17階層は、別名『墓地』と呼ばれており、バベル内で亡くなった人は皆ここに運ばれてきて、処理をされた後、墓の中に入るらしい。また、亡くなった人の人数はどんどん増えるので、『墓地』は拡大を続け、将来的にはこの17階層すべてが埋め尽くされてしまうそうだ。
私は恐る恐る『墓地』に足を踏み入れた。暮石はすべて日本の形式である。なるほど、あの「階層記録作家」は日本の血を持っていなかったから、これが『墓地』だとはわからなかったのか。
ねっとりとした空気が体に纏わりつく。
どこの墓も、大した整備はされていないようだった。皆たとえ親近者でも、死んだ後は興味を失ってしまうらしい。第三次大戦で命の感覚が麻痺してしまったかのようだ。私は両親もひいじいちゃんが死んじゃったら、こんな風に蔑ろにするのかなと少し不安に感じた。
歩くこと数分、私は「階層記録作家」が言っていた墓にたどり着いた。
墓漁りはいけないと逡巡したが、結局コメにまけて調べることにした。そこにあるお守りに、手を合わせてから中を覗くと、確かに古くはなっていたが、『図書館』の図鑑で見た「コメ」に非常によく似たものが置かれている。
私は、緊張しつつ、その墓のことを調べた。
よくよくこの墓を見てみると、古ぼけてはいたが、整備は他の墓に比べて行き届いているように感じた。暮石も丁寧に磨かれていたようで、汚れはあまり見られない。その暮石に書かれている名前を私は確認した。
そこに書かれていた名前は、
「カワサキ ヨシエ」
カワサキヨシエ…?どこかで似たような名前を見た気がする………。
あっ!!!!!!!
そうだ!思い出した!!!
ユーゴさんのところで見せてもらった日記に書いてあったじゃないか!!!
大部分は読めなかったけど、確かに〈3月25日〉の欄にヨシエという名前が書いてあったじゃないか!!!
名字は変わっているけど、「カワサキ」は私の名字でもある。てことはこれは…
ひいばあちゃんのお墓なんだ!!!!
感想、ポイント評価などよろしくお願いします!
「曽祖父のたまごかけごはん」編、次回でラストです。