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バベルのこどもたち   作者: 苫夜
38/40

第38話・ある階層記録作家の記録 中編


《3階層》


この階層には、対照的な夢を見たこどもが2人いた。


1人は、太陽を見ることを夢みて、そしてそれを実現した少年。


もう1人は、海を見ることを夢みたが、結果失敗し、『政府』に幽閉されてしまった少年。


なにがこの差を分けたのであろうか。


私はそれを疑問に思い、3階層の人々に話を聞いてみた。


その結果、差はなにもないということがわかった。


え?と思った諸君。私も実際そう思っている。

しかしそれは事実なのだ。


夢を想う気持ちは強く、そして一直線に。

諦めずに、とことんやりぬく。


両者が両者ともこういう行動をとっていた。


では、どうして違いが生まれたのだろうか?


それは、私は夢の本質にあるのではないかと考えた。


儚く、不条理なもの。

しかし、時に形となって我々の前に現れる。


そういった夢の本質が、この2人に違いを生じさせたのではないだろうか。


苦さと甘さ。


その2つがまざって夢ができるのではないだろうか。



《4階層》


神秘的。


もはやこれは、そうとしか表現できないだろう。


私がこう感じたのは、4階層の南西から生え、天井一帯を覆っているオレンジの木である。


この階層では、その当事者のとある少女に話を聞くことができた。


彼女から経緯を聞くに、私は素朴な疑問を抱いた。


どうして命の危険を冒してまで木と共に歩みたかったのか。


私がそれを聞くと、彼女は少し戸惑いつつこう答えた。


「夢だったからね。」


私の疑問は、深まるばかりであった。



《32階層》


32階層の南西部の、とあるドーム跡地。


ここには、いつも赤いフィギュアが飾られていた。

このフィギュアは、どうやらこの階層を担当していた『軍隊』の、今はもう亡くなった若い男の私物であったらしい。どうやら、この男はかなり小さい時からこのフィギュア、すなわちヒーローに憧れていたということを聞いた。


ここで何が起きたのか。


私にそこまで話してくれた『軍隊』のとある男は、必死に歯を食いしばりながらそれに答えることを拒んだ。

どうやら、箝口令が敷かれており、破ると2度と『軍隊』の職にはつけず、貧民層送りにされてしまうらしい。


「俺があいつの意思を継ぐ。」


そう話す男の決意は固そうであった。

詳細を聞くことを諦めて、彼と別れることになった間際、彼がボソリと一言呟く。


「あいつはヒーローになれたんだ。」


その目には哀しみが湛えられると同時に、なぜか誇らしげな色もうっすらと見えた。


《45階層》


ここはかつて私が妻と一緒に暮らしていた場所だ。

こっそり妻の様子を確かめに行ってみると、彼女の研究意欲はどうしてか復活したらしく、驚くことに私の生前使っていた秘密の研究所の場所まで把握しているようであった。

何が彼女を元気にさせたのかはわからない。

しかし、彼女が私の最大の研究を引き継いでやってくれているのを見てとても嬉しく、そして安心した。


もう彼女は大丈夫である。



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