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バベルのこどもたち   作者: 苫夜
37/40

第37話・ある階層記録作家の記録 前編

新編スタートです。

長い編は、今編でラストです。


《旅の始め》


今日から、このバベルを1階層から100階層まで各層の様子を記録することにした。

そんな大層な目的はない。

ただ、肉体であるところの私が死んだとき、私の傑作たるバベルのことをそのままにおいて別れることは非常に残念に思えた。

しかし、それよりも私がしたかったことがある。それは、このバベルに生きるこどもたちについて記録をすることだ。


こんな絶望的な状況下で、こどもたちはどうやって生きているのか。夢などもっているのか。


ただそれが知りたかった。

その願いを叶えるため、死ぬ前に妻の前から失踪し、秘密裏に私の作成したロボットたちに脳の移植と適合をサイボーグにするように頼んだ。

妻の前から失踪したのは、今でも申し訳ないと思っている。

私のせいで主流な研究から遠ざかり、「堕ちた天才」と呼ばれるように彼女がなってしまったのは、とても歯痒かった。


どうして妻に何も伝えなかったのか。


これを読んでいる諸君は当然疑問に思うだろう。


それは、私が彼女を守りたかったからだ。


生前、このバベルを始め、様々な開発をした私の研究の成果を、『政府』は喉から手が出るほど欲しがっている。

しかし、私の研究の中にはあまりにも危険なものがあって、そうやすやすと『政府』に渡すわけにはいかなかった。


もし私が死ぬと、その一切が私の妻に相続される。

それを狙って『政府』が妻に危険を及ぼすのが目に見えていた。


それを防ぐために、失踪という手段をとったのである。


まだ私が生きている。


そう『政府』に思わせておく必要があったのだ。


私が妻に知らせれば、万が一『政府』が妻に拷問をすることで、死んでしまったことを話してしまうかもしれない。



文章が長くなってしまって申し訳ないが、とにかくこうして私は自由な身を得ることができた。


さあ、ゆっくりとまわっていくことにしよう。



《2階層》


私が最初に印象に残ったこどもがいたのは2階層だ。

野宿できる場所が見つからず、暗い中懐中電灯片手にさまよってた私の前に現れたのは、いかにもなヤンキー然した少年であった。

私は私で、はたから見たらとても怪しい格好をしていたが、しかしその少年は私に話しかけてきた。


どうやら彼は、和歌について知りたいことがあるらしい。


私はそれを聞いて内心とても驚いた。

2階層は『スラム街』と呼ばれる、バベルの中で治安が最も悪い階層の一つである。

そんな『スラム街』と和歌は、水と油のように私は覚えて仕方がなかったからだ。


私を見る彼の目は、とても純粋な光に満ちていた。

私はその目におされ、いつもより柔らかな口調で少年(ホズミ君というらしい)に説明をしてあげた。


その後もしばらくホズミ君と話していると、どうやら彼が和歌を学ぶことに悩んでいるらしいと聞いた。


夢への悩み。


それはこどもたちにとっては避けては通れないものだろう。


しかし、このバベルで、しかも2階層の『スラム街』でこれが見れるとはまさか思っていなかった。


どうしてこんな環境でもそんな純粋な悩みを抱えられるのか。


彼にはもっともらしいことをアドバイスしてやって別れたが、その疑問は私の中でぐるぐると渦巻いていた。


夢。


改めて考えてみたが、それはとても曖昧なものだ。


周りの環境、本人の気持ち、実現のしやすさ….。


そんなものでいくらでも変わる。

しかし、それを多くのこどもたちは変えていない。

このホズミ君だって、「夢を諦める」という選択肢は相談をしてはいるがはなから気持ちにはないということが明白であった。


もっといろいろなこどもたちを調べよう。


そう思いを強くした2階層であった。


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