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バベルのこどもたち   作者: 苫夜
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33/40

第33話・バベルのおとなたち 中編


窓の外には、しんとした闇が広がっている。

ほんのりとつけられていた階層照明も、今はもうついていない。

そんな暗闇に目をやりながら、男はその少女との出会いについて話を続ける。




---------------------




大人たちは、私と、そのカナンという少女2人を残して何処かに行ってしまった。


今思えば、それは親たちの粋な計らいだったのかもしれない。

無言で見つめ合う私とカナン。


「どこか行ってみたいとこはあるかい?」


そう私がカナンに話しかけると、カナンは目を輝かせた。


「そ、それなら…….『植物園』ってところに行ってみたいです……!」


カナンを連れて、私は『植物園』に向かった。

当時でも、もうそこは沢山の花々があって人気のところだったのだ。


そこでは、特に話にするようなことはなかったが、とにかくとても楽しい時間であった。

私が今まで経験したことのないくらい濃密で素晴らしかった。


また2人で会おう。


そう約束して、その日はそこで別れたのだ。


まさかそれでもう2度と姿を見れなくなるとは思わなかった。



---------------------




再び、男は水差しから水をコップに注ぎ、一口含んだ。

注意深く見ると、若干の震えが男の手に見て取れた。

その手を優しく握る女。

それに勇気付けられたのか、男はまた言葉を紡いでいく。




---------------------




…….ある日、父のIDバンドに1つのメッセージが届いた。


〈3階層で、君に対するデモが起こっている〉


父は、私に必ず外に出ないようにと言い聞かせて、急いで3階層へ向かった。

しかし、私はその言いつけを破ってこっそり3階層へ向かった。

何故なら、3階層にはカナンがいるからだ。


……それが恋心だったのかは、今の私にもわからない。ただ、私と対等に会話できたのは、彼女がはじめてだったのだ。それが、昔の私にとっては新鮮であった。


3階層につくやいなや、そこでは声の大きなうねりができていた。


「お前のせいで息子が死んだんだ!」


「お前が集めた金を私的に使ってるから事故がこんな起きるんじゃないのか!」


嘆き、怒り、悲しみが広がる。


その当時の3階層では、度々外壁に穴があき、 " 外の空気 " が入ってくる事故が多発しており、住民は疲弊しきっていた。

ただでさえあまり経済的に余裕がない人が住んでいた階層である。

普段の生活でいっぱいいっぱいだった彼らには、事故対応の余裕なんてなかった。


しかし、父も言われたような横暴をしていたわけではない。

父だって、必死にこのバベルを保とうとしていた。そもそも低い階層は、出来た年代が古いので、多くの修繕や補強を必要としていた。

とても資材は足りず、水際の対応で父は精一杯だったのだ。


その怒号に対し、何も言い訳せずただ黙って受け入れる父を、私はこっそり後ろから見ていた。

なぜ何も言わないんだろうか。

当時の私は、とてもそれを不思議に思っていた。

幾分か父の様子を見た後、私はこの騒ぎの中でカナンは無事なのか無性に気になった。


急いでカナンの家へ向かう。

カナンの家は、この3階層の端にあったため、いくのには少し時間がかかった。


やっとカナンの家の近くに着いた私を待っていたのは、一面の火の海であった。



---------------------




女は、男の目に光るものに気づいていた。

しかし、気づいていながら、それを黙っておくことにした。

その気持ちを、話す男に寄り添う体に代えて。




---------------------



どうやら、さっきのデモ隊の誰かがここに火を放ったらしい。

カナンの父は、ここの階層の管理者であったからその怒りが父だけでなくこちらにも向いたのだ。

私は当然その火の海に飛び込んだ。

カナンを助けたい一心だった。


広い屋敷に充満する煙の中を、私は走り回った。


しかし、すでに息絶えてしまった者しか見つからない。

執務室を見たが、そこにはIDバンドに指先を必死に伸ばしたまま、紐に縛られている変わり果てた管理者の姿しかなかった。


父になんとか最期に連絡だけ送ったに違いない。

激情をこらえ、私は焦りながら他の部屋も懸命に探した。


そして、私はついに見つけたのだ。


とある部屋で、火の奥で怯えているカナンの姿を。


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