第23話・あっち向いてホイ!
1話完結、「あっち向いてホイ!」編です!
箸休め的な感じで読んでいただければ笑
「じゃんけんぽん!あっち向いてホイ!」
教室に元気な声が響き渡る。
ここは50階層、『学校』。
生徒が、「あっち向いてホイ」で遊んでいた。
バベル建設以降、極端に遊び道具が少なくなってしまったこともあり、こどもたちの遊びは、昔ながらの道具を使わないものに変化していた。
「くっそー、また負けた。リンカと何回やっても勝てなくて悔しいー!」
「ふっふっふ、ヤコブ君。君にはまだまだ私は超えられないよ。鍛えてから出直して来なさい!」
そんな中でも、このリンカという少女と、ヤコブという少年の「あっち向いてホイ」は、この教室の名物と化していた。
毎日一回勝負する。
そう2人が約束したのは1ヶ月ほど前だっただろうか。
圧倒的強さで勝ち続けるリンカに対し、負けても不屈の闘志で立ち上がり続けるヤコブ。
もはや「あっち向いてホイ」の枠を超えた熱い何かがそこにはあった。
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「どうすれば、リンカに勝てる…?何か対策を考えないと…。」
家に帰って、1人考えるヤコブ。
「《向ける指を高速で動かす作戦》は失敗したし、《変顔でリンカを惑わす作戦》も通用しなかったしなぁ…。」
傍目には、ふざけているように見えるが、ヤコブはいたって本気で真面目である。
勝つことだけに執着し、作戦を考えるために宿題をほっぽりだすほどに。
「よし…。ここはあの人に聞いてみよう!あの人なら何かいい方法を教えてくれるかもしれない!」
そう自らを励ますように言った後、ヤコブはすぐに家を飛び出していった。
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〈「あっち向いてホイ」に勝つ方法ですか?〉
書かれた文字からも戸惑いの色が窺える。
書いた主は、ベリーズ。
この『学校』の生徒会長であり、生徒全員の頼れるお母さん的存在だ。
そんな彼女は、以前あった不幸な事故で言葉が喋れなくなってしまったため、今はこうして文字を書くことで周りとコミュニケーションをとっている。
「うん!毎日リンカと『学校』で勝負してるんだけど、1回も勝ったことがないんだ。ベリーズ姉ちゃん、何かいい方法を知らない?」
〈うーん。「あっち向いてホイ」に勝つ方法かぁ。〉
そこまで書くと、ベリーズははっと何かを思いついたように物凄いスピードでペンを動かし始めた。
〈ひとつ、いい方法があるよ。〉
そう書くと、ベリーズは悪戯っ子のような微笑みでヤコブを見つめた。
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翌日。
今日もまた勝負の日がやってくる。
「もうそろそろ諦めた方がいいんじゃない?ヤコブは私に多分一生勝てないよ。」
そう挑発をするリンカに対し、ヤコブはただ不敵な笑みで笑うのみだった。
「な、何よ…。薄気味悪いわね…。まあいいわ。今日の勝負を始めましょう。」
「「じゃんけんぽん!」」
ここでヤコブはじゃんけんの勝利をもぎ取る。
考えた作戦は、初手のじゃんけんの勝利が必須条件であったので、ヤコブはそっと胸を撫で下ろした。
「はやくしなさいよ。」
そう急かすリンカを焦らす。
まるで何かを待っているみたいに。
「リンカ…今日、僕は君に勝つよ。」
そうヤコブは宣言する。
その宣言に、周りでこの熱い戦いを見ていたギャラリー(生徒)がざわめき始めた。
あの全戦全敗のヤコブが?
やけに今日は自信があるみたい。
囁き声が伝染のように広がっていく。
そんなギャラリーをきっと一眼睨んでリンカは黙らせると、ヤコブに向かい直った。
「いいから早くしなさいよ!」
苛つくリンカ。そんなリンカに、ヤコブはようやく勝負を再開する。
「あっち向いて………」
刹那、リンカの右の方から光が伸びてくる。
眩しそうにそちらを向くリンカ。
今だ!!
「ホイッ!!!!!!」
ヤコブの指した方はリンカから見て右。つまり、光が伸びてきた方を指した。
ヤコブは、初勝利を確信した。
リンカの向いた方向は下であった。
「………え?」
ぽかんとした顔になるヤコブに対しリンカは
「どうせこんなことだろうと思ったわ。まだまだヤコブは仕込んだライトごときで私に勝てるほど甘くはないわ。ふっふっふ。」
そう先ほどのヤコブのお株を奪ったように不敵に笑った。
ヤコブ、全戦全敗継続。
「くっそーーーーー!!!明日こそは勝ってやる!!覚えとけよお!!!!」
そう捨て台詞を放つヤコブ。
はてさて、ヤコブ君が勝てる日が来るのはいつになるのだろうか。
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