第22話・鈍色の海 後編
「鈍色の海」編 完結です!
トバリは、冷たい格子を思いっきり叩く。何度も。何度も。うっすらと血がでるくらい。
ガシャン、ガシャン。
その鈍い音は、虚しく響くのみであった________
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落選。
トバリのIDバンドに届いた結果はそう書いてあった。
「まじか…。感触は結構良かったのに…。」
トバリは深く落胆する。
失意のまま、トバリは自宅の寝床にふて寝する。
寝床といっても、ボロボロなソファだ。
そこに、トバリは顔をうずめる。
結局誰が合格したか。
日程はいつになったのか。
そんなことはトバリの頭にはなかった。
ただ、最後の望みが絶たれてしまったという深い悲しみ。
期待していた分、落胆も大きかった。
何時間経ったのだろうか。
ふて寝を続けるトバリに、規律的に響く足音が近づく。
そして、トバリの前に止まる。
「………んあ?」
トバリがその音で目覚めて、その集団を見つめる。
「我々は、『軍隊』非常時対策特殊部隊である。私はその部隊長だ。貴様に、重罪がかかっているため、我々は君を逮捕しに来た。」
事務的にそう伝える部隊長。
一瞬で覚醒したトバリは、驚きに目を見開き、必死に抗議する。
「そ、そんな!!ぼ、僕が何をしたっていうんですか!?」
その質問に対し、なぜかニヤリと笑う部隊長。
「反逆罪だとよ。まあ運がなかったと思って諦めるんだな。あぁ、逃げられるなんて思うなよ?2回も理由もわからず捕らえてたやつに脱出に成功されたらしいから、お前の場所は秘匿させてもらうぜ。」
下卑た笑いのままそういう部隊長に、トバリは絶句する。
そして、トバリは拘束され、音もなく連行されていった。
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『軍隊』でも一部の幹部や部隊にしか明かされていない特別な存在の場所。
ここは地下1階層、通称『獄』という。
管理者側に対し重い反逆や、侮辱した者たちが、ここに送られてくる。
1階層『処理場』が色濃く影響し、腐敗臭に満ちている。
そこに、トバリは拘束されていた。
何度も格子を叩くが、周囲から反応はない。
どうやらトバリは周囲に人がいないスペースに送られてきたようだ。
叩くのをやめ、トバリは考える。
「反逆罪」と言われて心当たりがあるのはあの面接の時以外にない。
あの急に不機嫌になった時が原因だろうか。
考えても、考えてもトバリには答えが見つからなかった。
虚しさにくれ、トバリはまた何度も格子を叩く。
ガシャン。ガシャン。
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話はトバリの面接が終わった日の夜に遡る。
「あぁ、あのトバリってやつ、適当に理由ぶち上げて、「獄」にいれといてくれたまえ。」
99階層、『政府』。執務室を退出間際、バベル総階層管理者、アルテン・ヨードルジャフはそうおもむろに後ろに控えていた者に伝えた。
その者は、あの面接にいたスタイル抜群の女性だった。
「わかりました。でもどうしてですか?」
そう女が聞くと、アルテン・ヨードルジャフはこうとだけ答えた。
「…あやつ、昔の俺を見ているみたいで気にくわん。」
「納得しました。」
いいたいことを理解した女は、こちらも端的に言葉を返した。
そうして、アルテン・ヨードルジャフはいつものようにどすどすと歩きながら去っていった。
女には、その背中が哀しみを湛えているように見えた________________
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トバリはひたすら格子を叩く。
誰も助けにはこないことを知りながら。
いつしか、手には血が滲んでいた。
しかし、トバリは叩き続ける。
必ず、誰かが助けに来てくれることを信じて。
足元には、涙でできた、鈍色の海が広がっていた。
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