第21話・鈍色の海 中編
面接が始まる。
あがなわれた控え室にはいると、トバリはその部屋全体を見渡した。
ざっと40人ほどいる。
この中から、たった1人だけがこのプロジェクトに参加することになる。
「次の方、どうぞ。」
ついに、トバリの順番となった。
一礼をして中に入ると、そこには中年の男が真ん中に、両脇には若い女性がいた。
どうやら、真ん中の男がバベル総階層管理者のアルテン・ヨードルジャフのようだ。
自らの名を名乗り、許可が出たのでトバリは椅子に座る。
右側の、メガネをかけ、神経質そうに机を指で叩いている女性が口火を切る。
「トバリさん。あなたはなぜ今回このプロジェクトに参加したいと思ったんですか?」
トバリは迷うことなく海が見たかったからと答え………るすんでのところで止まる。
(さすがにこれを言ってもおそらく選ばれないはずだ。もっとマシな理由を言わないと…。)
トバリはそう考えた。
「 " バベル外 " というものに非常に興味が湧いたので、今回申し込ませて頂きました。また外の状況の悪さを見て、バベルの安全性の高さを確かめるという目的もあります。」
さりげなくゴマをするのも忘れない。
左側のスタイル抜群の女性がその次に質問を投げかけてくる。
「具体的には、外のどの辺に興味をお持ちになりました?」
「海ですかね。生まれてから絵本でしか見たことがなかったのですが、大変綺麗なものであったということを聞き、1度見てみたいと思いました。」
トバリはそう答える。
正確に言うと、絵本で見たわけではない。
"あそこ"で"あれ"を見せられた、いや、"あれ"に魅せられてしまったのだ。
その時の自分の気持ちを語り始めると止まらなくなってしまうトバリは、このように当たり障りのない絵本で見たといつも言っている。
思ったより面接官たちの感触はよさそうだ。
いけるかもしれない。
そうトバリは思う。
そこで、今まで黙っていたバベル総階層管理者が口を開く。
「君はこのプロジェクトで、我らがバベルのために、一番に何をしたい?」
思いがけない質問に、トバリは一瞬口ごもる。
しかし、なかなか的を得た質問である。
これは、バベル全体を懸けるプロジェクトだ。
この質問は、もっとも当然のものであった。
「どうした?答えられないのかね?」
再びアルテン・ヨードルジャフが問うてくる。
慌てて、トバリは口を開く。
「えっと、バベルの外のことを調べてくることで、バベルにいる私の仲間に、外で見た様々な興味深いことを伝えてあげることで、皆に希望を持たしてあげたいです。」
解答を準備していなかったので、正直に思ってることを伝える。
慌てた割には、うまいことを言えたはずだ
そうトバリは自賛する。
「………承知した。」
そうぼそりとアルテン・ヨードルジャフは呟く。
(あれ?なんか不機嫌になった?)
トバリは、一瞬そう思ったが、その後は再び両脇の女性たちから様々な質問を浴びたので、すぐにそれを忘れた。
「ありがとうございました。これで面接は終了です。結果はIDバンドに送らせて頂きますね。」
「え?IDバンドにそんな機能ってあったっけ?」
アルテン・ヨードルジャフが一旦退室した後、終了を告げられたトバリは、グラマラス女性に思いがけないことを伝えられ、今度こそ素で言葉を返してしまった。
「あっ…」
「ふふっ、もう大丈夫ですよ。面接は終わりましたし。…IDバンドは皆さんが思っているより多機能ですよ。我々管理する側からの一斉メッセージ送信も可能ですし、場合によってはこれで通話もできます。」
「そうだったんですか…。初めて知りました。教えて頂きありがとうございます。」
「いえいえ、いいですよ。」
最後は少し締まらない感じで終わってしまったが、とにかく面接が終了した。
「ふうーー……。」
そうトバリは大きく息をつく。
後は結果を待つのみである。
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