第20話・鈍色の海 前編
「鈍色の海」編、スタートです!
トバリは、とても羨ましかった。
弟分であるナギサが、夢見ていた太陽を見ることができ、「3階層の太陽」と呼ばれていることが。
いや、そう書くと語弊があるかもしれない。
トバリは皆からそのように呼ばれたい訳ではなく、ナギサと同じようにあるものを見たいという夢を持っていた。
だから、夢を達成できたナギサがとても羨ましかったのだ。
その見たいものとは海。
しかし、海を見ることの難易度は、太陽を見ることよりずっと高かった。
その難しい点はいくつかある。
バベルの外に出るために必要な酸素吸入器はとても高価で、まだまだこどものトバリには手が出せない点。
たとえ酸素吸入器を手に入れることができても、海まではどうやらかなり長い距離があるらしい点。
結局、トバリはナギサに続いて夢を達成することはできなかった。
ナギサが相談したという、45階層、『学術街』のリエルという女博士のところにトバリも相談にいってみたりはしたが、リエル博士には、ひどく申し訳なさそうな顔をされた。
「ごめんね…。流石に私でも、それの解決策は見つけられないな…。海をトバリ君に見せてはあげたいよ。夢を追う子の手助けも全力でしたい。でも、私に今はそんな力をもってなくて…。ほんとにごめんね…。」
そうリエル博士に謝られた。
こうなってくると、トバリはもう打つ手がなかった。
こうして、トバリは夢を抱えたままの日々が続いた。
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「外界探索プロジェクト?」
ある日のこと、トバリは3階層の階層階段前に貼られたポスターを見て、そう呟いた。
外界探索プロジェクト。
それは、『政府』が現在の地球の状況について知るために行われる、バベル総階層管理者であるアルテン・ヨードルジャフ肝いりのプロジェクトである。
僅かな資源を利用して作られた飛行機を使って、バベル外の地球を調査しようというものだ。
バベルに住んでいる者たちに行わせることで、バベル住人たちへのアピールの意味合いもこめられている。
年齢は15歳以上から、経験の有無は関係なし。
それは、トバリにとって天啓のように授かったものであった。
これを使えば、もしかしたら海を見ることができる。
期待を胸に、トバリは採用要綱を確認する。
どうやら、面接試験があるようだ。
バベルのトップ肝いりのプロジェクトだけあって、面接官もアルテン・ヨードルジャフその人である。
このバベルを治める人物との面接のことを思い描いて、一瞬トバリは緊張で身震いをしたが、すぐに表情を引き締めた。
面接は1週間後。
このプロジェクト、絶対に合格してやる。
そうトバリは気合を入れた。
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1週間は、光のような速さで過ぎ去っていった。
まるで何かに導かれるかのように。
そして、面接当日を迎える。
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