↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バベルのこどもたち   作者: 苫夜
PR
15/40

第15話・朧月夜

1話完結です。



〜秋来ぬと 目にはさやかに見えねども

風の音にぞ おどろかれぬる〜

藤原敏行



俺の名前はホズミ。

自分で言うのもなんだけど、一応これでも、2階層『スラム街』でそこそこ名が知られたヤンキーだ。

毎日毎日ケンカに明け暮れる。

このバベルでは、『軍隊』以外誰もケンカに注意はしない。そんなの注意したってどうせバベルの状況なんて変わらないらしいぜ。貧弱な考えなことよ。

まあとにかくそれをいいことに、強い奴がいると聞けばすぐにそこに向かい、ケンカを売って必ず勝つ。それが俺の流儀だ。


そんな俺だが、誰にも言えない趣味が最近できた。


それは和歌。


和歌っつーのは、めっちゃ昔からニホンっつー国で親しまれてきた、短い詩みたいなやつだ。


きっかけは、1ヶ月前。


俺がノしてやった奴が、2階層に住んでるやつのくせにやたら本ばかり集めてて、何気なく一冊を手に取ったんだ。まあどうせどっかから盗んできたんだろうな。

で、その本のタイトルは、「古今和歌集」。

運命ってもんなのかね。こんなところでこんな本に出会ったのは。

とりあえず中をパラパラ読んでみた。

一応俺も独学で文字の読み書きくらいは学んでた。小さい頃は本を読んでみたかったからな。


まじでびびった。

こんな世界があるのかってくらいびびった。

たかが31個の文字で表せることなんてそんなないだろと思ってた俺が甘かった。

月並みな表現で悪いが、本当に鮮やかに俺の目に俳句がいいたいことが浮かぶんだ。

ただ、意味がわからん和歌もたくさんあった。


例えばこの藤原っつー人が詠んだ和歌。


風っつーのは、バベルの空調システムっつーのでたまに感じることがあるからわかる。

でもなんで風の音に驚いたんだ?ていうか、秋って何なんだ?意味がわからん。

困った俺は、『スラム街』の連中には内緒で、こっそり46階層の『図書館』にいって、調べることにした。でも貧民層に住む奴ははいれないって断られた。意味不明すぎる。どうして貧民層の奴だからって入っちゃいけねーんだよ。


その日の夜のケンカで俺は荒れた。

俺がその和歌集を読んでいたら、通りすがりの顔見知りに、


「お前和歌って…笑 柄に無さすぎっしょ笑」


そう言われた。俺は理性のタガが外れた。


散々ボッコボコにして、相手を動けなくしても、まだモヤモヤが消えなかった。

電気を落とされた階層照明の暗がりの中で、俺は1人『スラム街』を歩いていた。

そんな俺の前に、反対側からライトを持って、

分厚いコートを来て、帽子を深くかぶった怪しい男が歩いて来た。

瞬時に警戒する俺に対し、その男は自分のことを「階層記録作家」って名乗った。いろんな階層を回ってそれを記録している旅人だって。

そいつは見た目からしてメチャクチャ不思議で怪しい奴だった。そんな奴だったからかも知れない。色々とモヤモヤしていた俺は無意識に、そいつに例の和歌のことを聞いてみたんだ。


「秋っていうのは、季節の一つ。…あぁ、季節って言ってもわかんないか。水は冷たいだろ?火は暖かいだろ?普通に外で暮らしていた戦争前は、そういった冷たい、暖かいっていうのを肌全体で感じることができたんだ。暖かい春。暑い夏。涼しい秋。寒い冬。その四つに季節は分かれていたよ。」


そいつは結構わかりやすい説明をしてくれた。


「なるほどな。じゃあ結局この和歌の意味って何なんだ?」


「暑い夏が終わったけど、ほんとうに終わったのかと疑うほど特に変わりばえはしない。でも、そんな時にすっと吹く涼しい風。

それでようやく秋がきたんだなっていうことがわかる。だから驚いているんだ。」


「なるほど…。やっと意味がわかったぜ。ありがとよ。…でもお前はなんでそんなこと知ってんだ?」


「それは、僕は君よりちょっとだけ長く生きてるからかな。」


ニッコリと笑う階層記録作家。対して年齢違うようには見えねーけどな。

他に理由がありそうだな。

でも多分これ以上聞いても言ってくれないよな。


そこから俺たちは、階層照明が薄っすらと点くまで話し続けた。


そいつは、いろいろなことを教えてくれた。

和歌に載ってる植物や動物。季節事の名前。

めっちゃ楽しかった。


そいつに色々と話もした。


暴力に散々頼ってきた俺が、今更和歌というまるで正反対なことを学んでもいいのか。

今まで付き合ってきた『スラム街』の連中に後ろ指さされたりはしたくない。

今日も仲間に笑われた。


そいつは、黙って俺の話を聞いていた。


ずっと俺の話を聞いた後、いざ別れるという時になって、そいつは俺に唐突に、


「自分のやりたいことをすればいいさ。」


そう言って、去っていった。


やつの言葉は、俺の頭にぐわんぐわんと響いていた。


俺のやりたいこと。俺のやりたいこととは。


俺はいつも、それを考えることから逃げていた。そういった後ろめたさを、全て暴力で晴らしてきたということから目を逸らしていた。出来ないとわかるとすぐに諦めていた。


でも、そいつの言葉を聞いて、視界が晴れた。


俺はもう逃げない。


俺はもう諦めない。


俺のやりたいこと。


それは、もっと和歌のことを知りたい。


たくさんの和歌を楽しみたい。


趣味のレベルを超え、俺にとってもう和歌はなくてはならないものになっちまってた。


自然と素直な感情が浮かび上がってきた。


そのためにどうするか悩んでたけど、俺は決めた。


あの、階層記録作家と同じように、このバベルを回ってたくさんの和歌に触れる。


そして、それを買った紙に記録して、いつか俺だけの和歌集を作る。


ゆっくりでもいい。


笑われてもいい。


貧民層出身でもいい。


風流のかけらもないこのバベルの中でもいい。


それすらも和歌は受け入れてくれるはずだ。


とにかく俺は自分のしたいことをする。ただそれだけだ。



刹那、見えもしないはずの月が薄暗闇の中に浮かんだように俺の目は見えた。

















………しかし、あいつの名前はいったい何だったんだ…?



〜世の中は 夢かうつつか うつつとも

夢とも知らず ありてなければ〜

詠み人知らず



ブックマーク登録や感想、ポイント評価などよろしくお願いします!

next to new episode→DREAMS COME TRUE?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。