第10話・曽祖父のたまごかけごはん④
「曽祖父のたまごかけごはん」編、完結です。
ひいばあちゃんのお墓に手を合わせて、私は自宅へ戻る。
どうやら、ひいばあちゃんの墓を手入れしていたのはひいじいちゃんだったらしい。
両親は、ひいばあちゃんのお墓があることは知っていたが、ひいじいちゃんが1人で整備したがったために、場所も教えてもらっていないとのことだった。
それから数日後、私は、病院に許可を得て、ひいじいちゃんを車椅子に乗せて連れ出した。目指すはあのお墓のところである。
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目的を聞かれても答えない私に対して、ひいじいちゃんはずっと不思議そうな顔をしていた。しかし、それが『墓地』に近づいてくるうちに、その瞳は驚きの色を帯び始めた。
『墓地』の入口前につくと、私はそこで止まった。
何故か、墓地内部から湯気のようなものが上がっている。
「アスカ、まさか…。」
そう問うひいじいちゃんに対し、私は
「量は少ないけどね。」
とウインクして返した。
『墓地』の内部に私とひいじいちゃんは進んでいく。そして、一つの墓の前で湯気を上げる御釜のところで止まった。
「2人分にわけたらそれぞれ一口分しかなくなっちゃったけど…。後たまごもないけど…。それでも許してね、ひいじいちゃん。」
そう言った私の前で、ひいじいちゃんは号泣し始めた。
「ありがとな…。ありがとな…。どこにこのごはんはあったんじゃ…?」
「ひいばあちゃんのお守りの中にあったんだよ。安全祈願って書かれてたお守り。」
「…….!!あのお守りは、わしが戦争に出征するとき、家内がつくってくれたやつなんじゃ…。戦争がら帰ってきたときにはもう、家内は死んでいた。わしだけではなく、家内も生き残らなければ意味はなかったんじゃ!だから、そのお守りはあまり見たくはなかった。でも戦争でほとんどが焼け焦げた中でこれは唯一家内の遺品と言ってもいい。だから墓と一緒に置いておいたんじゃが…。」
そこでひいじいちゃんは一旦言葉を切り、暫く無言になる。そしてまた話し始めた。
「……そうか。そうか。家内がこの中に「コメ」を入れてくれいたのか…。だとしたら、これは、家内がわしに遺してくれた、メッセージだったんじゃな。戦争が終わったら、一緒に、2人が大好きな、あのたまごかけごはんを食べようと…。」
「…でも、たまごがないから、本当のたまごかけごはんにはならないの…。」
「いいんじゃ、いいんじゃ。ご飯だけでもう十分じゃ。TKGがTGになったところで、家内の思いの本たるところである、一緒に食事ができるんじゃ。こんな幸せなことはない。アスカ、家内の思いに気づいてくれて本当にありがとうな。」
そう言うと、ひいじいちゃんは、置いてあった2つの茶碗に、一口大の小さなごはんをよそった。そして、1つをお墓の前におくと、手を合わせ、そして、一粒一粒噛みしめるようにゆっくりと食べ始めた。
「美味しい…。本当に美味しいのう。なあヨシエ…。」
ひいじいちゃんが、食べ始めるのを見て、私はそっとその場を離れた。
今は、2人の時間だもんね。
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それから数週間後、ひいじいちゃんは私たちに見守られながら、穏やかにこの世からたった。
私たちは、ひいじいちゃんを、ひいばあちゃんと同じお墓にいれた。私はそのお墓に、一粒だけ残して置いたコメを供えた。
そして、私は手を合わせ、天国にいるひいじいちゃん、ひいばぁちゃんに誓いをたてた。
私はまだ納得していない。
「いつか卵を見つけて、本当にTKGを2人で食べさせてあげるからね!」
そっと、私の頬を、一陣の風が撫でていった。
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