第17話 ナイフと植物 その1
〜4月26日〜
「杏奈様!!お荷物をお持ちします!」
「良いわよ。もう家に帰るし、目の前に車あるし」
「杏奈様!!これ俺の作ったケーキです!どうぞ食べて下さい!」
「あららありがとうね」(別に誕生日とかじゃないんだけど)
相変わらずモテモテの杏奈は車に乗り皆に手を振った。そして車が走り出した。
「ふぅ」
「人気者も大変そうですね」
「ほんとそれ。でも嬉しい事の方が多いのよ。無料でケーキとかくれるし」
ケーキの箱を開けると、普通に美味しそうだった。
「あら。上手に出来てるじゃない」
ケーキの箱を閉めて、鞄から小説を出して読み始めた。するとすぐに終わってしまった。
「そうだった。新しい小説買うの忘れてた」
「このまま車で行きますか?」
「ううん。偶には歩いたほうがいいでしょ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。変装しておけば安全だから」
家に着くと、すぐに私服に着替えて、財布を持ち、本屋へ向かった。
〜本屋〜
「どこにあったけ」
本棚を見ていると、後ろから人の気配がした。後ろを見ると、立ち読みしている人が数名いた。
(なんだったの?今の気配は・・・唯の気配じゃなかった。まるで・・・・・・私を襲おうとしている気配・・・)
また後ろから気配を感じた。後ろを振り向くと立ち読みしている数人しか居なかった。
(まただ・・・なんなの?これは・・・)
「私の名前は剣崎 実」
「はっ!!」
後ろを振り向いた。今度は髪が長く、白髪の女性が立っていた。
「あなた!一体なんなの!」
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。あなたが攻撃しなかったら、私は何もしないわ。というよりここでは何も出来ないでしょ?だってここで能力を使ってしまったら、皆にバレてその瞬間あなたの未来は終わりだからね。勿論私もだけど」
杏奈の耳元で囁くように言った。杏奈は息を荒くして
「あなた・・・何が言いたいの?」
「私が聞いた情報だと、あなた睦月 隆という男と知り合いのようね」
「それが何よ」
「どう?私達の組織に入らない?」
「はぁ?話を飛ばし過ぎじゃない?」
「ふふふ」
実は本屋から出た。すると杏奈に
「来なさい。ここで話すような事じゃないわ」
「なんでわざわざあんたみたいな人について行かなきゃ行けないのよ。嫌よ」
「来るか来ないかはあなたの自由よ。でも来なかったら。ここにいる人達を殺す事になるわ。それでも良いの?」
少し笑みを浮かべて言って来た。
「はぁ?」
実がニヤリと笑うと、急に本屋で立ち読みしていた人の首から血がブシャーッと出てきた。
「なっ!?」
その人はバタンと床に倒れた。
「ここにいる人達全員人質よ」
「くっ!!」
地面が割れて、割れ目から、ツルが出てきた。
「分かったわ。あなたについて行く。だけど絶対にここの人達には手を出すな!!」
「分かったわ。ふふふ」
実は杏奈を連れて、誰も居なさそうな、空き地に連れて来られた。
〜空き地〜
「それで?もう一回話を聞かせて」
「私は睦月 景都様の部下。景都様から隆を殺せと言われているんだけど、私は何も情報も無いのに隆を襲うのは危険だと思うの。だから隆に関しての情報が欲しいの。そして隆に関わっている人達を調べて、偶然あなたを見つけたから、情報を聞こうと思ってね。出来れば仲間になってくれると嬉しいんだけど」
「嫌に決まってるでしょ」
即答だった。隆を裏切る気なんて全く無い。すると実が自分の腰を触り出して
「そう。なら死になさい」
と言うと、いつの間にか目の前に来ていた。そしていつから持っていたのか、小刀を杏奈の首めがけて振ってきた。
「はっ!!」
すぐに目の前に木を生やし、身代わりにした。
「あらあら意外と素早いのね」
小刀は木に突き刺さらず、そのままスーッと木を通り抜けた。
「危なかったわね。もしもこの小刀に当たっていたら」
実は指パッチンした。すると木が半分切れて、そのまま重さに耐えられず、木は実の横に倒れた。
「これは・・・」
「私の能力はどんな物も切ることが出来る能力。だけどダメージを与えられるようになるのは、10秒後以上経たないと駄目なの。簡単に言うと10秒後、私がさっきみたいに指パッチンとかで許可すると、一気にダメージがくるのよ」
また一瞬で杏奈の目の前まで来た。今度は下から小刀を振ってきたので、顔を上に向けて、後ろに仰け反り避けた。しかし
「時間よ」
「うっ!」
ピキッと顎の下の皮膚が切れた。紙で切ったぐらいの傷なので、そこまで痛くはなかったが
(こんなに仰け反って、顔に当たらないように避けたのに、それでも切れてしまった・・・)
杏奈は小刀から結構顔を離したのに、顔を切ってしまったと思った。
「私のこの小刀は本当はもう切れ味が殆ど無いの。それに小刀だから、実際は小さいものしか切れない。人参とか、こんにゃくとかね。でも私の能力を使っているから、なんでも切れる。それが例え力士だろうが、大木だろうが、岩だろうが、ダイヤモンドだろうがね。何が言いたいか分かる?」
「・・・」
杏奈は黙って実を見た。実は話を続けた。
「つまり切れ味なんて物は無いし、そして長さや太さなんて関係ない。私が切ろうと思えば切れるという事よ。さっきみたいに攻撃の隙を突かれて避けられたら、少しは避けられるかもしれないけど、私の身体能力と能力があれば、どんなにあなたが私の攻撃を躱そうとしても、攻撃は当たるのよ。少なくとも、その傷ぐらいの傷は負わすことが出来る」
杏奈は顎の下の傷を撫でた。