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悪役令嬢は既婚者です!? その2

本日2回目の投稿。

次は18時に投稿されます。

 あ、また一緒にいる。

 窓から見えた光景のひとつが目に止まり、私は思わず足を止めて溜め息を吐く。

 正直、とても複雑だ。

 学園入学から、既に半年以上が経過している。

 あれだけ私を溺愛していたヒースは、今やヒロインに夢中だ。

 ……入学して一、二ヵ月目は、ヒースも笑顔の仮面をつけて、やんわりとヒロインをスルーしてた。

 三ヵ月目は、出会えば一言二言交わす程度には仲良くなってた。

 四ヵ月目は、随分と親しげになってた。

 そして五ヵ月目には、まるで恋人同士のように振る舞うようになった。

 今ではヒースは全く私を構わない。

 ……昼間は。

 日が落ちて学園が終わり家に帰って来ると、ヒースは真っ先に私がいる部屋に来て私をきつく抱き締め、昼間の行動を苦しげに詫びるのだ。

 『あれは自分の本意じゃない』、『何故か体が彼女の元へ向かってしまう』、『俺が本当に愛しているのはクーだけだ、信じて欲しい』と。

 ヒースはあの(ヒロイン)が何かしらの魔法を使って自分達を操っているに違いないと言ってその証拠を掴もうと、同じように自分の本意ではない行動を取っている王太子殿下達と共に頑張っているが、成果はまだ出ていないらしい。

 ……当然だろう、と、思う。

 この現象はヒロインが何かをしているのではなく、きっと、ゲームの強制力なのだろうから。

 その強制力は私にも働いている。

 ヒース達程ではないけれど、そう、たとえばばったりヒロインと遭遇してしまったりすると、『平民上がりの男爵令嬢という方はどういう常識をお持ちなのかしら。既婚者である男性に色目を使うだなんて、人間性を疑うわ』なんていった嫌みが口から出てしまう。

 ……それでも、酷い嫌がらせをせずに済んでいるのは、前世の記憶があるからだろうか?

 何が私への強制力を緩和しているのか、はっきりとはわからないけれど、ヒース達との違いはといえばそれくらいしか思いつかない。

 強制力が強いせいで、最近のヒースは休日もヒロインとのデートに行ってしまう事が多いから、私は夜から朝にかけてしか一緒にいられない。

 それが悲しくない、寂しくないとは、言わないけれど……帰って来るなり私に苦しげに謝罪と愛を伝えてくるヒースを見ると責められない。

 大体にして、この行動はヒース自身の意思でもないのだから、責めてしまうのは間違っているだろう。

 たとえ、昼間のヒースの行動の結果、私が周囲から"結婚早々堂々と浮気されている憐れな夫人"として、時に憐れまれ、時に嘲笑われていても。

 そして……きっと年度末には、やはりゲームの強制力が働いて、離婚という事態になるんだと思う。

 けれど、それが終わればゲームは終わる。

 そうしたら、ヒースや王太子殿下達、攻略対象者は自身の自由を取り戻すはずだ。

 なら、そうなった後に、また改めて婚姻を結べばいいと思う。

 既に私の実家であるショーヤーン家と婚家であるメイローン家、そして国王陛下方にはこの事態は本意ではないという真実を伝えてある。

 それを伝えた時のヒースを、皆痛ましげな表情で見ていた事から、再婚の許可を取るのも、そう難しくはないだろうし。

 ……本意ではないとはいえ、ヒースの口から、離婚を告げられるのは悲しいけれど。

 それさえ終わってしまえばきっと、また元通りの日常が戻ってくるから。

 耐えてみせるよ……ヒース……。

 私はそっと目を閉じて、再び開くと、真っ直ぐ前を向いて、目的地へと歩き出した。


★  ☆  ★  ☆  ★


「クー!!」


 日が落ちて、ランプに火が灯された室内に、荒々しく開かれたドアの音と共に、私を呼ぶ声が響いた。

 続いて、身体を軽い衝撃が襲い、強く引き寄せられる。


「……お帰りなさい、ヒース。今日も一日お疲れ様……きゃっ!?」

「消毒っ! 消毒させてクー!! ちくしょうあの女っ!!」


 ヒースはそう声を荒げながら私の顔全体に何度もキスの雨を降らせた。

 驚いてヒースを見れば、その頬は涙で濡れている。

 …………消毒?


「……ヒー……ス……? …………消毒って、ま、さか」

「っ! 違う!! 口にはしていない!! …………ただ、頬に…………っ、くそっ!! 俺が触れたいのは、クーだけなのにっっ!!」


 ……頬。

 ヒロインの、頬に…………?

 ぎゅっ、と、ヒースの背に回した手に力が篭る。


「…………大丈夫……。……ヒースの本意じゃないんだもの……大丈夫……大丈夫……」

「っ! ……ごめん、ごめんクー!! ごめん!! 謝るからっ……何度でも謝るから!! ……愛してるんだ、俺を嫌わないで……お願いだクー……!!」

「……うん、わかってる。……ヒースを嫌いになんてならない。……なれないよ……何が、あったって」

「クー……ごめんっ。……愛してる……!!」


 それからしばらくの間、私達は、ただきつくお互いを抱き締めあった。

 そしてその夜は、ヒースはいつまでも私を離しはしなかった。

……R15って、どこまでがセーフ……?(^^;

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