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婚約者は私に甘すぎる

 私の母は、学園に通っていた頃に現王妃様と知り合い、とても、とても仲良くなったらしい。

 それこそ、お互いの婚約者が思わず嫉妬する程に。

 学園では常にと言っていいほど一緒に行動し、休日にもよく一緒に過ごしていたという。

 そして、それ故に放っておかれる形になった婚約者達は、互いを慰め合うようになり、そうした交流の中でやはり親しくなっていったらしい。

 今でも家族ぐるみでとても親しく付き合わせて戴いている。

 だからだろうか、第七王子とはいえ、王家の王子と子爵家の令嬢の婚約という、普通ならばあり得ないものが結ばれてしまったのは。

 きっかけは、王妃様と共に我が家に遊びに来ていた第七王子殿下の『僕、大きくなったらラヴィエルをお嫁さんにする!』という一言だった。

 生まれた時から何かにつけて王妃様と共に会いにくるこの王子殿下は、私がお気に入りらしく、ものすごく可愛がってくれている。

 でもまさかそんな事を言い出して、しかもそれが受け入れられ、本当に婚約者になるとは思ってもいなかった。

 だって私は、六つ年上の第二王子殿下の婚約者になるはずだったのだから。

 この世界は、私が前世でハマっていた、『エターナル学園~永久に醒めない恋の夢~』という乙女ゲームの世界だ。

 私は、第二妃様のお子である第二王子殿下がお忍びで街に出た時に、殿下が正義感を発揮させ、悪漢から子供を助けて逃がしたものの、そのせいで自身が代わりにボコられ、挙げ句斬られそうになっている所に偶然通りがかり、殿下を庇って斬られて傷を負い、そして殿下が傷の責任を取る形で婚約を結ぶ、という設定の悪役令嬢……な筈だった。

 けれど今の私は第七王子殿下と既に婚約しているし、ゲームとは違い傷を負うなんて事もないんだろうなと思っていたが、十歳のとある日、第七王子殿下とのお忍び街デートにて、悪漢にボコられてる第二王子殿下に遭遇し、『兄上!』と飛び出し庇った第七王子殿下を咄嗟に更に庇い、やはり背中に消えない傷を負ってしまった。

 一種のゲームの強制力だったのだろうけど、そのせいでしばらくの間我が家には、第二王子殿下と第七王子殿下からの謝罪とお詫びの訪問と届く贈り物が凄かった。

 特に第七王子殿下は毎日毎日やって来て、朝から夕方まで付きっきりで、それはそれは手厚い看病をされた。

 そうして時は経ち、第二王子殿下が十八歳、第七王子殿下が十四歳、私が十二歳の年に、いよいよ乙女ゲームがスタートした。

 エターナル学園は、十二歳から十五歳までが初等部、十六歳から十八歳までが高等部となっていて、建物も離れている。

 けれど中庭と食堂、そしてカフェテラスは共用となっているので、広く交流できる。

 ……これは、その弊害なのだろう。


「お願い、アークロッド様を解放してあげて! 怪我をたてに無理矢理婚約を結ばされるなんてアーク様が可哀想よ! そんな婚約おかしいわ!」


 私の正面に立ち、涙を浮かべてそう訴えるのは、可憐なピンクブロンドの髪の少女。

 そう、ヒロインさんだ。

 そしてアークロッド様というのは、第二王子殿下の事である。

 ……うん、このヒロインさん、きっと転生者だね。

 ゲームの知識だけで発言しているんだろう。

 でも、この状況でそれを言うのは、いくらなんでもおかしいと思わないのだろうか?

 今はお昼休憩の時間。

 私は中庭で昼食を取っている…………第七王子殿下であるラクスロット様の膝の上で。

 公衆の面前だけれど、昔からこうなので、向けられる色々な視線には、もう慣れた。

 ラクス様は、私に甘すぎる。

 一緒にいると、移動は手を繋ぐのは当たり前、時には抱っこで運ばれる。

 座る時は必ず膝の上。

 そして食事は『ラヴィ、あーん』と言って食べさせられる。

 勿論、今も。

 それを目にしながらのあの台詞……うん、よく言えたよね。

 違和感とか、感じなかったのかな?


「ちょっと、聞いてるの!?」

「……あ、あの、私の婚約者は」

「ラヴィ、駄目。よく知らない頭のおかしい人と話しちゃいけません。さ、ここはうるさくなったし、あっちに行こうね」

「え。あっ……」


 ヒロインさんの勘違いを正そうと口を開いた私は、しかしラクス様に遮られ、更にはそのまま運ばれて移動させられてしまった。

 後ろからヒロインさんの呼び止める声が聞こえるけれど、私にはどうする事もできない。


「全く、楽しく食事の時間を邪魔するなんてね。兄上に抗議しておかないと。事が済んでご退場願う時までもう僕達には近づかないようにして貰うから、ラヴィは何も気にしなくていいからね?」

「え……はい……?」


 事が済んで、ご退場?

 一体何の事だろう?

 意味がわからず、首を傾げてそれを考えていると、目の前にサンドイッチが差し出された。

 気づけば、中庭のすぐ隣にあるカフェテラスで座っている。


「ほら、ラヴィ。あーんして?」

「あーん」

「美味しい?」

「はい、とても」

「そう、良かった。じゃあ次ね。はい、あーん」


 にこにこと楽しそうな顔で差し出されるそれらに素直に口を開け咀嚼するうちに、いつの間にか思考は遥か彼方に飛んで行ってしまっていた。

 思い出したのは、年度の終わり。

 『膿を全て出し終えたぞ』というアークロッド様の話を聞いた時だった。

 どうやらヒロインさんの父親である男爵は、幾つかの貴族達とつるんで悪事を働いていたらしい。

 その証拠を掴むため、陛下や王太子殿下の命で、敢えて頭と口の軽いヒロインさんを側においていたのだそうな。

 『君には一度迷惑をかけてしまったね、すまない』と謝りながら手を伸ばし、私の頭を撫でたアークロッド様だったが、けれどそれはすぐにラクス様に阻まれた。

 撫でられないように、ラクス様がしっかりと私を抱き込んだのだ。

 『触らないで下さい、兄上』と言うラクス様に、アークロッド様は『はいはい、悪かった』と苦笑していた。

 そして話が終わり解散となって、私はまたラクス様に抱っこで運ばれる事となった。

 本当に、ラクス様は私に甘すぎる。

あっさりと書きすぎた……かな?

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