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透明少女の楽しい日常

異世界トリップもの。

 この世界には魔物がいる。

 その魔物は一千年かけて闇の力を蓄え、その力が一番強い者を王に戴く。

 それが魔王。

 魔物は魔王の号令の元他種族を襲い、地上を、空を、海を蹂躙していく。

 魔物の蹂躙が始まり魔王の誕生を確信すると、他種族はそれに対抗する為共に手を取り、協力して世界を救う勇者を召喚する。

 勇者はこの世界に生きる者だったり、異世界の若者だったりするそうだ。

 そして勇者が召喚されると、次にその勇者を支える力を持つ仲間を召喚する。

 その仲間もやはりこの世界の者だったり、異世界の者だったりするそうだ。

 今代の勇者は、この世界の若者だった。

 巧みに剣を操る猛者だが、それ以外の事はあまり得意ではなく、頭もちょっと弱いらしい。

 その為、勇者を支える仲間は多種多様な人物が召喚された。

 魔法使いや僧侶などの戦闘メンバーは勿論、商人や料理人などの交渉や食事の世話をする非戦闘要員も仲間に加えられた。

 けれど。


「君は、ただの普通の女の子だよね?」

「ステータスも至って普通、特に目立った能力もないよな?」

「唯一ある能力が、"透明化"って、なあに? これ?」

「さあ?」

「……この子は、いらないだろう」


 最後に召喚された私を囲んで首を傾げる勇者の仲間達と、勇者。

 その勇者の最後の一言で、私の仲間からの除外が決定された。

 じゃあ家に帰してくれるのか、と思うところだが、そうはいかなかった。

 この世界の人間だったならば馬車でも船でも使っていつかは帰れただろうが、私は異世界召喚組だ。

 異世界からの召喚は片道キップで、帰る事はできないらしい。

 それでも勇者とそのお仲間は私を除外するつもりのようだ。

 勝手に召喚され、使える能力が顕現していなかったからってあっさり見放される。

 なんて酷い……。

 いや、そりゃ、正直言って魔王退治なんて目的の恐ろしい旅に出発したくはないよ?

 したくはない、けど……でも、でもさ、召喚理由である勇者パーティーの参加から除外されて、元の世界に帰れもせず、私、これから一体どうなるの!?

 見知らぬ世界に一人このまま放り出されて路頭に迷う悲惨な未来しか思い浮かばないんですけど!?


「勇者様、皆様。この少女、本当にいらないのですか? ならば、私の部下に戴いてもよろしいでしょうか? ……一度貰ったならばお返しできませんが、それでも?」

「はい」

「別にいいですよ」

「どうぞ」

「……ありがとうございます。ではお嬢さん? 私と一緒に来て戴けますか?」

「は、はい……?」


 問われても、私に拒否権などないだろう。

 この人の部下となって何をさせられるのか非常に不安に思いながらも、私は頷いた。

 こうして私はこの人、王太子殿下の部下になった。




 あれから私は、透明化の能力を使い透明人間となって、日々お城のあらゆる場所を歩き回ったり、王太子殿下に連れられてあらゆるパーティーに参加したり、たまに殿下付きの護衛騎士様の一人をつけられてどこかの領地に行ったりして過ごしている。

 私の仕事は、赴いたそこここで見たり聞いたりした事を余す事なく殿下にお話しする事。

 透明人間となり誰からも見えなくなった私は、実に様々な人物の、所謂"裏の顔"を見聞きする事ができた。

 実のない話を殿下に聞かせる事になる場合も多いのだが、それでも殿下は『君がいてくれてとても助かるよ』と言ってくれる。

 けれど、実際助かっているのは、私のほうである。

 殿下が拾ってくれたおかげで路頭に迷う事もなく、住む所も給料も貰えて生活できているのだから。

 城内をうろついて色んな人の話を盗み聞くのはスパイみたいで楽しいし、パーティーに参加するとこっそり高級料理を思う存分堪能できるし、領地に行く経費は殿下持ちだから無料の旅行を楽しめるし。

 何より、領地に行く時に念の為にと付けて貰える護衛騎士様はとてもイケメンなのだ。

 イケメン騎士様と二人きりでの無料の旅行。

 これが私の一番の楽しみだ。

 次の旅行はいつかといつも心待ちにしている。

 あ、お仕事は勿論ちゃんとやってるよ?

 でないと殿下にまで捨てられるかもしれないしね。

 今も盗み聞いた話を殿下にお話ししたところだ。

 隙を見てある人の鞄からこっそり盗み取った書類付きで。


「ありがとう。これでようやく彼の尻尾を掴めたよ。またひとつ膿を出せる。君のおかげで助かったよ」

「いえ。お役に立てたなら良かったです」

「今回はご褒美をあげようか。明日一日臨時でお休みをあげるよ。明日は街でお祭りがあるだろう? 行っておいで。念の為、彼を護衛に付けるから」

「!」


 そう言って殿下が示したのは、例の護衛騎士様。

 殿下と私の視線を受けると、騎士様は無言でこくりと頷き了承を示した。

 や、やった、イケメン騎士様と二人きりでお祭り見物だ!!

 最高のご褒美です殿下!!

 私は満面の笑顔で殿下の執務室を出ると、自室に戻って明日着ていく服をあれこれ物色したのだった。


 え、勇者と仲間のパーティー?

 ああ、魔王退治の後爵位と領地を貰ってたけど、どこかの貴族に唆されて馬鹿な事してたから、色々没収されたよ。

 今は確か、非戦闘要員は国外追放になって、勇者と戦闘要員はいち騎士団員として危険な地域に配置されたんじゃなかったかなぁ。

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