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世界の正しさ

この小説はフィクションです。登場する人物、地名などはすべて架空のものです。

拙い文章ですが、お読みいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

「うるせーな!さっさと金出せばいいんだよ!」

ゴンと鈍い音がし、中年の女性は床に座り込む。その女性は震える手でお金を差し出し、酒のせいで赤い顔をし、怒りに満ちた男はそのお金をふんだくるように握りしめ、外に駆け出して行った。

その女性のそばに青年は駆け寄り、目の前の出来事に動揺しながらも優しく女性の殴られた頬を優しくなでた。

「大丈夫?お母さん?」しばらくなでていたが頬が赤みをさしているのに気づき、すぐさま青年は冷蔵庫に向かい氷を何個か取り出し、ビニール袋に入れ。頬に優しくあてる。

「大丈夫よ。正也。そんなに強くは殴られていないみたい。すぐ赤みも引くわ。」

正也を心配させまいと母は強がった返答する。正也はその配慮に気づいていないのか曖昧な微笑みを返し、

「父さんも酔っていたみたいだからね。」そう返答した。

「ありがとう。正也。あなたはほんとに優しい子。私の宝物。」母は少し悲しそうに、両手で正也の頬に触れる。

「優しくなんかないよ。殴られるのを止められなかった。」正也はため息を吐き、無力さをかみしめていた。その様子に感づいたのか、母は言い聞かせるように

「いいのよ。あなたが割って入ったら、あなたまで殴られてしまうかもしれないじゃない。それだけはお母さん耐えられないわ。」母は悲しそうな顔をしてゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ごめんね、母さん。二人で逃げれるようなお金や場所があったらいいのに。」

「そんなことないわ。あなたがいればいいわ。あなたがこうして大きくなってくれただけでもうれしいのよ、お母さんは。それにねあの人も昔は立派だったの知っているでしょう?正也。」

母は昔を思い出すように宙を見てつぶやいた。

「あの人は会社から無実の罪を着せられ、体よく追い出されたのよ。優しすぎたから。それすらも許容しようとしてたわ。その怒りや無念さは私しかわかってあげれないわ。今は自由にさせてあげて?」

母は正也に問いかける。

「母さんはあの人に甘いよ。いくら昔が立派だったからって今、罪を犯していいわけない。恐喝と一緒じゃないか!」

母は少し残念そうに首をふる。

「今、暮らしているのもあの人が誠実だったときに貯めたお金。今は少ししか残っていないけど、それでも私が働けば何とか暮らしていける。それだけでも感謝しないと。正也。あの人は優しすぎて会社を追い出されたけれど、優しさは悪いことではないわ。むしろ誇るべき才能よ。あなたにはそれが与えられている。優しく、誠実に、勤勉に努めなさい。疲れたら休めばいいわ。それで息をついたら同じように優しく生きるの。あの人は今見失っているだけ、、、、きっと思い出すわ。」

正也は納得いかないような表情で

「それでも殴るのはやりすぎだよ!」とふてくされたように言い返す。

母は困った顔して

「そうね、それも”今”だけよ。」強調するように言い、こう続けた。

「不幸は長く続かないわ。明けない夜はない。幸せは今か今かと待っていてくれる。そのチャンスをしっかりとつかみなさい。」

正也は殴られても気丈にふるまう母の姿に感慨を受け、あきらめたように

「わかったよ、母さん。でも僕はきっとあんな風にはならないよ。絶対。

じゃあ学校行ってくる。行ってきます。」と母に言い残し、自分が通う高校を目指そうと扉に向かった。

母は一言「行ってらっしゃい」と息子を見送るように言った。


*


正也の家は無茶苦茶だった。母は父に期待していたが、小学生ぐらいのころから手の付けられないやんちゃな子供のようになった父の姿しか覚えておらず、納得いかなかった。

(僕がもう少し強ければ母さんを守れるのに、優しさだけじゃ何もならないよ)

心の中でそう吐き捨て、いつもの通学路を歩いていた。

通り過ぎる人たちは活きいきしているように正也は感じていた。自分だけが世界の不幸の真ん中にいるような欝々とした気分で通り過ぎる人たちを横目で見ていた。


*


高校は正也にとって気を張らずにいられる場所だった。

趣味の合う友達を見つけ、休憩時間には情報交換や意見を言い合ったりしながら順調に高校生活を過ごしていた。今日も好きな漫画のキャラやアニメの話で盛り上がっていた。

眼鏡をかけ、少しぽっちゃりした祐樹

線の細い少しおどおどした幸也

「あのキャラがマジでかわいくて」「わかる!最高だよな。」「あの、、僕は長い髪の子のほうが、、、」

「マジかよ~、断然短髪巨乳の子だって」「まあ幸也が言うのもわかるけどな」、、、、

高校ではやはり趣味や、部活、家が近所などでグループが分かれて一種のコミュニティを形成する。

少し遊んでますみたいな雰囲気を出す活動的なグループ、かといえば正也達みたいに趣味全開なグループなど。それぞれグループはあっても決して話かけないわけでもなく、正也が所属しているクラスは取り入った事件もなく順調に1年が過ぎていった。


*


父のふるまいは変わることはなく、朝から酒を飲んでいたり、時々、母に暴力を振るったり、玄関で寝ていたりと正也にとっては変人そのもだった。それでも父だからと母の言ったことを心にとめ、父と衝突することもなく何とか日々の生活を続けていた。正也も家計の足しになればと週に2、3回はアルバイトをいれ、お金を母に渡していた。これは正也が中学生の時におもいつき、高校になったらと念願かなってのバイトだった。母一人に責任を負わせることなく生活を維持できればと思ってのことだった。

そのお金を父が勝手に持ち出すことはなく、母が「正也がもっと大きくなったら、きっと返すから」と大切に保管してくれていた甲斐があったのかもしれない。もしくは父の良心か、、、、なんてあるはずのない妄想を膨らませることもあった。お金を正也は使ってほしかったが、母の思いを無下にはできず、それに従った。


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