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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
11月
97/126

5話 実家2

 実家の、長い廊下を歩いて海は仏間にたどり着いた。



 その部屋は壁一面をくり抜くようにようにして、仏壇が備えつけられていた。半年以上帰っていなかったというのに、仏壇にたまるはずのホコリはなく、掃除がしっかり行き届いている。

 仏壇は金色に光り輝いていた。



 海はその前に正座をして静かに「ただいま」と口にした。



 その仏壇にある写真は2枚。

 1枚は男の人で2枚目はその隣にあり、女の人だった。



 海の両親であり、遠藤の家の先代当主である。



***

 


 庭の片付けを終わらせた雪菜は、台所の近くを通った。そこでは例の女性がヤカンに火をかけている最中だった。



「石上さん」



 声をかけると、女性――石上は振り返った。彼女こそ、つい先ほど海の帰宅に応じた人である。



 石上はすぐにヤカンへと目を戻した。



「何かお茶菓子でもだしてあげられたらと思って。せっかくのご実家ですし」



「そうですね……」



 海にとってたしかにこの場所は、本当に気を休めることのできる、唯一の場所なのだ。

 最近会う彼女は、やっぱりどこか不安そうで。つらそうだったから。



 それを雪菜だって気にしていた。



「ですが、そうも言っていられないと思います」



 しかし、自分の心に言い聞かせるように雪菜は言った。



 そう、そうも言っていられないのだ。それは、自分が1番よくわかっている。



 かつてB組を担任していた小野塚。彼女の突然の変死。

 あれが事故ではなく事件なのは単純にわかりやすいことだ。しかし警察はきっと手も足もでないだろう。



 小野塚を殺した人物はそれほど逃げ足が速い。



 誰の手によってそいつが殺されたのか、雪菜も海も、そしてここにいる石上も予想がついている。

 けれど今のところ、自分たちだって警察と同じく手も足もでない。



 ピーッという音が突如台所に響く。ヤカンの湯が沸いた音だ。



 雪菜と会話をしながらも作業を進めていた石上はその音に気付いて、ヤカンの火を止めた。それから用意しておいた茶葉の入った急須にヤカンの湯を注ぐ。

 ほわほわと温かそうな湯気が台所じゅうに広がる。11月という寒さの中、余計にその温かさが身に染みる。



「海がここに来た目的だって、私はわかっています。だから」



 早めに、手を打たないと。

 また、後悔することになる。



「私、海を呼んできます。場所は適当に、居間でいいでしょう」



「……そうしましょう」



 雪菜がその場をいったん立ち去ろうとして正面を向いたそのとき、何かにぶつかった。



 顔をあげると海がいつの間にかそこに立っている。

 眉がしょんぼりとさがっていて、口はへの字に曲がっている。



 もしかしなくとも、今の会話を。



「聞いてました?」



 一応確認のために聞いてみると、彼女はあっさりとうなずいた。



「途中から……」



 石上がやがてやってくる。両手におぼんを持ちながら。

 そのおぼんの上には、急須とふせられた湯呑が3つ。さらにはチョコレートとせんべい。

 せんべいはともかく、チョコレートという選択肢はこのおぼんの上には少々不釣り合いな気がする。



 しかし海も雪菜もあえて何も言わなかった。



 3人は長い廊下を居間へ向かって歩いた。

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