3 頭痛
小野塚に飛びかかって、その体を無理やり抑え込む。柔道技の袈裟固めみたいなものだ。なんでもいい、こいつを抑えられるのなら、なんでも!
「早く逃げて!」
みんなに声をかけると、クラスメイトたちはそろって呆然としていた。
なんでだ! この状況を見てまだ気づかないのか!
「は、早く逃げますわよ!」
大きな声をあげたのは千ノ原さんだった。彼女はまず近くにいた雨宮さんの腕を引っ張ると、教室のドアに向かって走り出した。
それを合図にみんなも走っていく。
「雪!」
篠田が声をかけてくるけど、ここで行ったら誰が小野塚を止めるんだ。誰かひとり犠牲にならなきゃ意味がない!
僕は首を激しく横に振った。徹くんに目配せをすると、彼はすぐに篠田の腕を引っ張った。
「せ、先生も早く!」
「あなたを置いていけるわけ!」
「いいから!」
僕が必死な目を向けると、舟久保先生は舌打ちをして、もたついている円城くんの、車イスのハンドルをつかんで走り出した。
廊下を駆け抜けていく、何人もの足音。
これでいい。
一瞬の気の緩みが、小野塚への縛りをゆるませた。小野塚は両足を軽くあげるとその勢いのまま僕をぶん投げた。
今度は怪我をしないように僕はうまく着地する。
小野塚は今の勢いのまま立ち上がっていた。
「……逃げるなよ?」
「逃げませんよ」
あぁ、目が痛い。
殴られたせいもあるだろうけど、古傷が痛む。寒いせいかもしれない。
こんなことなら長袖Yシャツだけじゃなくて、上着も着てくるんだった。
もともと見えないから殴られたところで視力が落ちるだの、失明の心配だのをしなくて済むのはわりといいことだ。
何事もとりあえずプラスに。
「先生、どうして今さらここに?」
「おまえに会いたくてだよ、雪」
「なんで今さら……」
何か、何か情報を得られれば。
そんなことを考えながら、小野塚の様子をうかがう。
「おまえこそ、まさかみんなを一気に逃がすとは思わなかったな」
おまえ、と小野塚は続ける。
「いつからそんな、人のために動く人間になったんだ?」
「……さあね」
ああ、頭も痛い。
***
頭痛い。
海は目を開けた。
ぼんやりとする意識を覚醒させた原因は、枕元にあるスマホがバイブしたためだった。
手に取ると、そこに表示された名前を見て思わず顔をしかめた。
一瞬無視してしまおうと思い付くが、またでないとこのあいだのコノハのときのようなことをされかねない。
そう思って海は電話にでた。
「もしもし? こちとら今インフルエンザなんですけど、用があるなら直接いらしてくださ」
『あなた今学校にいないのね!?』
「だからそう言って」
『急いで行きなさい!』
切羽詰まったような物言いに、海はぼんやりする頭を必死に動かしながら、とりあえず「なんで?」と返す。
『あの子が人質にされたのよ』




