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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
10月
83/126

2 再会

 バァァァァァンッ


 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 僕の真横にあるドアが横ではなく縦に開かれ、いや倒れたのだ。

 激しい音をたててホコリを周囲に撒き散らしながら。


「あら?」


 舟久保先生が両目をぱちぱちとさせて、この今一瞬に起きた出来事に驚く。


「何かしら。だーれ、ドアなんて壊したのはぁ」


 いやいやそんな冷静な対応があるか。

 廊下から影が現れるのが見えた。


 その姿を確認する前に、舟久保先生の目付きが一瞬にして変わった。


「誰かしら、あなた」


 僕の背筋を寒気が走る。


 これは何だ? 悪寒? でもなんで。

 僕は廊下から現れる人物に注視した。


「せんせ……ぃ……」


 黒いスーツに身を包み、厳しい顔つきをたたえたまま現れたその人は、かつて僕らの担任をしていた小野塚先生だった。


 僕の脳内で5月に起きた出来事が駆け巡っていく。


 斧を振り上げた先生。

 狭い部屋でそれを防ごうとした僕。

 助けてくれたのは。


 海さん!


 僕は思わず後ろの席を見るが、そうだ。彼女はインフルエンザで休んでるんだ!


「久しぶりだな、みんな?」


 みんな、ざわついている。


「ず、ずいぶんダイレクトな侵入だね……」


 篠田が隣でちょっとあきれている。


 いや違う、なんでみんなそんな冷静なんだ。

 この人は、この先生は、かつて僕と海さんを……。


「久しぶりだな、雪」


「っ」


 先生の瞳が僕をとらえる。僕は思わず身構えつつ、「おひさし、ぶりです」という声はとても震えていた。


「あいつは、遠藤はどこだ?」


「……いんふる、えんざで休み」


「なぁんだ。せっかくお礼参りに来たってのになぁ!」


 瞬間、僕の左目に衝撃が走った。


「雪!」


 体が床に投げ出され、僕は左目をおさえながらうめく。


「やっぱり、左からの反応遅いな。見えないんだよな、ようするに」


「雪くん! ちょ、ちょっとあなた、いきなり訪ねてきてうちの生徒に何を!」


 舟久保先生が聞いたことのない怒鳴り声をあげる。僕の背中に誰かが触れた。顔をあげると徹くんがいた。


「大丈夫か?」


「全然、大丈夫じゃない……」


 小野塚……は、舟久保先生のほうを向いて、ケラケラと笑い出す。


「言ったじゃないか、お礼参りだよ! 私をこの学校から追い出した、そのお礼参り! まずは手っ取り早くここの生徒たちを一人残らず」


 やめろ。


 心臓がどくん、と鳴り響く。


 血液が沸騰して、体じゅうを駆け巡っていくのがわかる。


 僕の中にいまだ残っている、「俺」が。


「殺して」


「やめろぉっ!」


「雪くんっ!」


 僕は制止を降りきり走り出した。小野塚に飛び付こうとするが、その寸前で小野塚から思いきり腹に蹴りをくらった。


「っぐぅぅぅ」


 雪! 雪くん!


 名前を呼ばれる。けれどそうじゃない。僕の名前はそんなんじゃない。そもそも僕には名前がないんだ。俺にだってない。だから、だから。


「ここにいるヤツらは誰ひとり殺させない!」


「かっこいいねぇ? 弱いくせに」


 血が沸騰している。沸騰した血はとまらない。

 

 それでも、みんなだけは守らなければ。


 僕はもう、大切な誰かを失いたくない。

 その記憶は「僕」の中にない。だとしたら、「俺」の中にその記憶があるんだ。


 大切な誰かを失ってしまった記憶が。


 頭が痛い。さっき小野塚に殴られたせいなのか。でも、それでも。


 助けなくちゃ。

前から決めていた展開ですが、なんか読み直してると急展開すぎてついていけなかったことと思います。ごめんなさい、本当にごめんなさい……

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