14 借り物競争2
「位置について!」
審判の合図が聞こえ、海たちは立ち上がってそれぞれのレーンに着いた。
「よーい……」
パァン
審判が空に向かって放った空砲を合図に、走り出す。
観客席からの歓声、叫び声、悲鳴。アナウンスの声さえも、すべて騒がしいBGMだ。
箱にたどり着く。てっぺんにはちょうど腕が入るくらいの大きさの穴があった。そこに腕を突っ込み、中をまさぐっていく。
1枚の紙がでてくる。
開くと、そこに書かれていたのは。
好きな人
あーなんて、ベタな。
公開処刑、なんて言葉をよく聞く。不本意な状況であれ、本意な状況であれ。自分の秘密を公衆の面前で暴露してしまうことだ。
別に公開処刑だなんて思わない。
だけど、ああどうしよう。
しかし迷いは一瞬だった。
海は観客席に走り出す。
「来て」
目当ての人間を見つけて、海は有無を言わさずそいつの腕を引っ張る。そいつは驚いているけれど知ったこっちゃない。勝てばいいのだ、勝てば。
そう、勝てばいいのだ。
ゴールテープを1番に切った。
審判に確認をとってもらうと、審判は驚いて海とそいつを交互に見やった。
海の隣にいるそいつは、まだお題を知らない。呆然とあたりを見渡して、「ここにいるの、場違いじゃない?」なんてことまで言ってくる。
別に間違ってないよ
そう返しておく。
やがてアナウンスが聞こえた。
「さ、3年B組遠藤海さん。お題は……す、好きな人ぉ!?」
***
はぁぁぁぁぁぁっ!?!?
各所からあがった叫び声に、僕も思わず同調してしまった。
「いや、いやいやいやいや。え? う、海さん!?」
「勝てばいいんだよ、こんな茶番」
海さんはまったく恥ずかしいという気持ちのカケラもないのか、そんなことを言ってさっさとその場を立ち去った。
いやでも、こんなの。公開処刑もいいところ……。
そう思ったけれど、ふと周囲の空気が変わったことに気がついた。
僕はもう一度周囲を見渡した。
この場を支配する空気には、2種類存在した。
ひとつはB組。みんな驚いているようだけど、それは単純に「よく自分の好きな人を公衆の面前でバラせるな!?」みたいな気持ちの表れのようだ。僕も同じ気持ちだ。
だけど、もうひとつは違う。
海さんは、遠藤海は、この学校では「男子」として通っているのだ。
つまりそれは、「男子が男子を好きだ」と公言しているようなものである。
「う、海さん!」
僕は彼女の背中を慌てて追いかけながら、どうかこの誤解が早く解けてくれるように祈るしかなかった。
所詮、体育祭の余興の一貫として。




